第6話
母が昔小さな手に載せてくれた、あれ。わたしが子供の頃に薬局でもらった緑のカエルのケロヨンみたいな笑顔で、田口さんはわたしに言った。
身長が高いので黒髪が闇に溶けていた。わたしはぼんやりとその顔をみてぽかんと口を開けてしまった。
「彼女とか、邪魔くさいって言っていませんでした?」
「ウン、でも里沙ちゃんなら実験の手順を見ているとサクサク何でもできるし、女々してないし。すぐに泣いたりしないだろうなと」
「ただ、それだけですか?」
わたしは最後の一言を言わせないと納得はできなかった。
「うん、元気でめげないところ。僕はずっと好きだった。でも彼がいたじゃんか。仲よさそうだったし……」
わたしはその一言を聞いて、捕まれた手を握り返した。田口さんははっとした顔でわたしを見て立ち止まった。
「いいですよ、田口さん。わたしなんかでよかったら」
わたしはためらわずに返事をした。
「やった~!」
「ええ?」
「僕は断られると思っていたんだ。だって、嫌いで別れた訳じゃないでしょ。由隆くんとは……」
そう言われるとまた思い出してしまうのに、なんでこう、男の人は前の男の影を女の中から探そうとするのだろう。つまらない、まるで中古品の値踏みをしているかのようだ。彼のことなどすっかり忘れていたのに。
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