第65話 勇敢で仲間思いのヒーロー
「因みに、屋敷を囲んでいるのは『雷の檻』という特級トレジャーだ。触れば感電して死ぬ」
「……ふん。そんなところだろうな。俺達を逃さない為か」
光の柱を挟んで、クリューとオルヴァリオが相対する。
「クリュー。お前、こっちに来ないか」
「なんだと?」
クリューに話があると言った、オルヴァリオ。彼はクリューを、あろうことか勧誘した。
「実は、商会も『グレイシア』を解かしたいんだ。だからサスリカを拐った。だけど、お前の命令じゃなきゃやらないだろ。それに、お前しかサスリカのメンテナンスができない。サスリカが壊れるのは俺達にとっても避けたいんだ」
「……それで、俺も裏切れと?」
「ああ。……お前は、『グレイシア』が最優先だろ? 解かした後に、ちょっと用事はあるんだけどさ、それが終わればお前にやるから。悪い提案じゃないだろ? このままじゃ、お前達はネヴァンを突き止められない。『グレイシア』には二度と会えないんだから」
「…………」
クリューは考えた。こんな提案をしてくる魂胆を。
「……サスリカか。あいつは本当に優秀だな」
「!」
全く手掛りを掴ませないネヴァン商会を、『ますたー』と会わせる方法。彼女はそれを自ら考え、実行したのだ。そしてその通りになった。『グレイシアを解かしたいのならクリューが必要だ』と。
「そんなの許さないわよ! あんたねえオルヴァリオ! クリューの気持ちも——」
「ああリディ。ありがとう」
「!」
「オルヴァ。お前の話は分かった。次は俺の話を聞け」
リディが再度声を張る。だが今度は、クリューが優しく止めた。
「……分かった。時間はある」
「こちらからも提案だ。戻ってこい。この雷の柱を消して、『氷漬けの美女』とサスリカの居場所を教えてくれ。取り戻しに行こう」
「……それはできない」
「何故だ? 脅されているのか」
「…………答えられない」
オルヴァリオの目が、泳いだ。
元々、親の反対を振り切って勝手に家を出て、トレジャーハンターになった男だ。ネヴァン商会に従っている理由は、『家族』ではないだろう。
今日。今。オルヴァリオの、この目を見て。表情を見て。
「…………ここまでの道中、ネヴァンからの刺客は無かった。ただの一度もだ。見付からないとは言え、嗅ぎ回る奴を放っては置かないだろう。トレジャーハンターなんだ。どこで死んでも誰も騒がない。どこかその辺で殺せば何も憂いは無いのに」
対組織戦について。サーガもリディも、勿論クリューも警戒していた。圧倒的に不利であると自覚していた。すぐにでも、簡単に殺され得ると理解していた。慎重過ぎる程に。
だが。
必要無かったのだ。
「……『それ』が、条件だった訳だ。俺達を殺さない代わりに、サスリカを拉致し、協力しろと」
「——!!」
リディは、口を抑えた。オルヴァリオは奥歯を噛み締めた。サーガは目を見開いた。
エフィリスは舌打ちをした。
「お前は、仲間を裏切れるほど汚れられない筈だ。お前が憧れた『トレジャーハンター』は、勇敢で仲間思いの、ヒーローなのだから」
「……ぐっ」
噛んだ奥歯を軋ませた。何もかも、クリューには見透かされていた。当然である。彼らはトレジャーハンターの仲間である前に、同郷の学友、友人なのだから。
「俺だって! あのままトレジャーハンターを続けたかったに決まってるだろ!」
「!」
オルヴァリオが、吠えた。
「俺の目的はトレジャーハンターだ! それに人生を懸ける覚悟がある! だけど! ……だけど!」
雷の檻を、掴みかかろうかという勢いで迫る。
「『お前たちの命』と天秤にかけられれば! ……俺の夢なんか! ……無理だろ、こんなの……!」
涙が見えた。
「……充分だ、オルヴァ」
「!」
それでもう、クリューの表情から怒りは完全に消えた。
「エフィリス。頼む」
「ああ」
「!?」
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