第64話 再会②

「火薬」

「おう。そっちだ。エヴァルタさん、ある程度メチャメチャにして良いっつってたからな。どこに仕掛けたか忘れんなよ」

「うん。あと、わたしの配置なんだけど」

「ああ。お前は狙撃手だからな。サーガから指示あったろ」


 広い屋敷を、罠で武装する。まるで学芸会の準備のようにあちこち回るマルを眺めながら、エヴァルタが呟いた。


「あの子はエフィリスが好きなのね」

「……そうね。分かりやすいわ」


 応えたのはリディ。丁度道具を運んでいる所を通りすがったのだ。


「貴女は、クリューさんとチームメンバーだけど」

「クリューは『グレイシア』にご執心だからね」

「あら。あの西方の特級トレジャーね」

「ええ。ネヴァンに盗られたから追っているの。あたしは……」


 リディが無意識に思い浮かべたのはクリューではなく、オルヴァリオだった。


「……一発殴りたい相手がネヴァンに居るだけ」

「ふうん」


 どうにかして、オルヴァリオを捕まえなければならない。この屋敷に来てくれれば良いが、そんなことは期待していない。


 準備は順調だった。大量に仕掛けた罠に、『特級』クラスのハンターがここまで揃っているのだ。軍隊すら相手にできる。どこからでも掛かってこい、と。


 その夜だった。


「特級遺物『雷の檻』」

「!」


 窓の外が、急激に明るくなった。火や太陽の光ではない、白い光だった。クリューが身体を乗り出して確認する。


「なんだ? ……光の柱……?」


 白い光が、細く地面から空へ伸びていた。その柱が、無数にある。人が通れるかどうかという間隔を空けて、屋敷を囲んでいた。


「『炎のエフィリス』と仲間達! 全員出てこい!」

「!?」


 声がした。光の柱を挟んで反対側に、人影が見えた。


「……サーガ。罠は全て、無駄になったらしい」

「まさか……」

「…………行くか。エヴァルタは杖持って中で待機していてくれ」


 相手は特級トレジャーを持っている。それは当然分かっていたが。どれだけ予想をしても、完全に対策はできない。まさか大きな屋敷を丸ごと『雷の柱で檻にして閉じ込められる』など、どう備えろと言うのか。

 サスリカが居れば、また結果は変わっていたかもしれないが。一瞬で、戦わずに負けた。これが、情報のアドバンテージである。

 エフィリス、クリュー、リディ、サーガがそれぞれ武器を持って屋敷を出た。


「…………えらく派手な手段を取るんだな。ネヴァン商会てのは」

「勿論街からは見えないようにしている」

「そうかい」


 エフィリスが皮肉を言う。向こうには、ふたりの男が立っていた。男のひとりが答えるが、エフィリスにとってはもうひとりの男に話がある。


「で、何の用だ。どの面下げてんだ今。なあ——」


 その続きは、クリューが紡いだ。


「——オルヴァ」

「……クリュー……」


 黒いフードコートを着ているが、雷の柱の光でよく見える。その、黒髪が。『相棒』の顔が。


「オルヴァリオ! あんたねえ! 何考えて——」

「済まん」

「!」


 リディも責め立てる。だがそれを、オルヴァリオ自身が遮った。


「本当に済まない。俺の。……俺の家は、ネヴァンだった。それも、構成員とかじゃない。教祖の直系だった。俺も、知らなかったんだ」

「……! だからって! 何にも言わずに、サスリカまで拐って! あたし達は仲間じゃなかったの!?」

「……済まない」

「済まないって! あのねえ! あんた! あんた、あたしが……! うっ。げほっ」


 ひたすら、頭を下げるオルヴァリオ。責めるリディ。昂り過ぎて、噎せてしまった。リディは。

 今、その脳裏に過っているのは。彼女の屋敷でのこと。自分の話を聞いて、アドバイスをしてくれた優しいオルヴァリオ。

 剣に真面目に取り組んで、訓練をしていたひたむきなオルヴァリオ。


「——さっさと戻ってきなさい! サスリカと一緒に!」


 クリューより。誰より、必死に叫んだ。

 だが。


「それはできない。今回は、リディじゃない。お前に話があったんだ。クリュー」

「……聞くだけ聞こう」


 オルヴァリオの紫色の目はもう、覚悟が決まっていた。

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