第61話 反則(チート)
「エフィリス。火」
「ほいよ」
夜。サーガが手早く集めてきた薪に、エフィリスが剣を振った。すると赤い炎がぽっと出て、燃え広がる。
「……便利ねえ。古代遺物って。エフィリスあんた、厨房でも英雄になれそう」
それを見て、リディが呟く。確かに、火起こしの作業が必要ないのは楽だ。この時代には、ライターどころかマッチも無いのだから。
「ああ。『火』は万能だよな。これを見付けた先人は天才だ。『鉄』と並んで、最強の発明のひとつだろ。間違いなく」
「そんな『特級トレジャー』を、ネヴァン商会は大量に保有していることになります」
「あっそうか」
クリューとリディ、さらにマルが居る以上、狩猟による食糧には困らない。今夜は中央大陸固有の中型草食動物の丸焼きだ。
「対してこちらはエフィリスの剣のみ。当然ながら不利にしても限度があるレベルで不利です」
「燃えてくるだろ?」
「…………」
サーガの言葉を受けて、エフィリスは口角を上げた。リディは少し引いてしまった。
「……クリューともオルヴァリオとも違うわね、あんたの考え方。そういや雑誌のインタビューで『天性のトレジャーハンター』とか言われてたわね」
「逆境ほど楽しまなきゃよ。なあマル」
「……わたしは、別に。エフィリスが楽しいなら」
無骨な手で撫でられ、心地好くするマル。彼女はエフィリスが大好きなのだ。分かりやすいなと、リディは思う。
「今向かっている街は?」
「方針として、ギルドのある街を巡ろうと思っています。相手に隙は無いとは言え、どこでボロを出すか分かりません。『大人数による聞き込み』という、我々ではできない『
「分かった」
サーガが、説明しながら肉の焼き加減を見ている。視線を感じたのか、クリューの方へ振り返った。
「……何故私が『特級』のメンバーなのか、気になりますか」
「!」
恐らく、よく訊かれるのだろう。彼は目立たない。エフィリスとマルは誰が見ても分かりやすい派手な活躍を見せるが、サーガはそうではない。強力な武器を持っている訳でも、何か武術を修めている訳でもない。
「……正直」
「ははは。構いませんよ。私も別に、自分が特級レベルとは思っていませんから」
クリューは素直に答えた。それを聞いて、待ちきれず生焼けのまま食べ始めてしまったエフィリスがこちらへ来た。
「トレジャーハンターってのはな。クリュー。実は『戦闘』なんざ二の次なんだ」
「ん」
「俺とマルは狩猟とか戦闘、武器を扱うことしかできねえ。そんで、サーガの役割は『それ以外』だ。分かるか?」
「…………」
焼けた肉を切り分けて串に刺し、マルとリディに配る。この辺りのポピュラーな食べ方だ。
「『生きる』こと。その能力がまず求められる。ハンターは未開地に行くからな。『人間の国家』っつう『
「……生きること」
「ああ。飲み水の確保はどうする? ゼロから火は起こせるか? 菌や寄生虫を対策した寝床はどう作る? 食べられる草と毒の区別は? 急に嵐が来たらどうする。家の建て方は。病気は? 怪我の対処は。仲間の女がもし身籠ったら、どうやって取り上げる? 安全な場所をどのように確保する? そんな生活を、恒久的に、一生続けられるか?」
「………………」
無理だ。クリューは脳内でシミュレートし、心内で即答した。先進国ラビアの都会で中流階級育ちの彼は、その『国』という庇護が無ければ『生きていけない』。
「……リディ」
「もぐもぐ。へっ。なに? クリュー」
「まだまだ、俺達はリディにおんぶに抱っこだな」
バルセスでは。
そうだ。今気づいた。否、分かっていたつもりだった。
「……ふふん。今更気付いた? もっと敬いなさい」
「ああ。俺達は自然界からすれば、子供も同然な訳か。『ただ生きる』ができない。いくら銃が撃てようが、弱いな」
「ははっ! ウチでいうと『それ』がサーガなんだよ。ま、俺は最低限はひとりでもできるがな」
完全に理解したクリューを見て、エフィリスが笑い声を上げた。
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