第62話 呼び出し
それは、中央大陸に来て3つ目の街でのこと。この辺りでは一番大きなギルドがある。情報も比例して多いだろうと目星を付けたギルドだ。
「『炎のエフィリス』って、あんたか」
「ん」
聞き込みの依頼をしようと受付へ行くと、職員の男性の方から話し掛けてきた。
「そうだが、なんだこっちでも俺、有名だったりするのか?」
「ルクシルア共和国から依頼書が届いてるってよ」
「は?」
逆に依頼書を突き付けられる。エフィリスは戸惑いながらも、内容を確認した。
「なんだ?」
クリューもそれを覗く。
「……警備」
「!?」
依頼内容は、屋敷の警備だった。依頼主は国。国家が、『他国』のいち屋敷を警備せよと命令してきたのだ。それもエフィリスを名指しで。
「…………俺が中央へ渡った理由は知ってる筈だ。国も、威信がある。『グレイシア』は最早、俺だけじゃねえ。ルクシルアの宝だ」
「じゃあ、その依頼って……」
記された屋敷は、ここから近い。この辺りで有名なトレジャーハンターの屋敷だった。
「取り敢えず、行くか。屋敷の人間に話を聞こう」
大方、予想はできていた。
屋敷の主人は元『特級ハンター』という女性だった。中央式の屋敷は山の中腹に建てられており、森に囲まれていた。そんな所を警備せよ、と来れば。
「貴方が、西方の特級『炎のエフィリス』ね」
「あんたが、中央の元特級『不死身のエヴァルタ』か」
ふたりは握手を交わした。エヴァルタは翡翠のような綺麗な緑の髪と瞳をしている。革のコートで厚着をした女性だった。外見は20代後半程度だが、その穏やかな表情と佇まいは老練な雰囲気を帯びさせていた。クリューはこの女性が『強い』と、勘で察した。
「これが届いたの。今話題でしょう?」
「……これは」
エヴァルタに手渡されたのは、黒い鳥の羽根だった。見覚えがある。『氷漬けの美女』の展示されていた美術館で。
「……ネヴァン商会。予想通りか」
羽根には、その名前が刻まれていた。
「どう思う? サーガ」
「十中八九、我々への『呼び出し』でしょう。基本的に、完全に隠れ切っている商会は我々への対応を『無視』で良い。しかし、何故かこのような『隙』を作ってまで、我々と接触したい事情があると見ます」
「……まあ、乗るしかねえな。せっかくわざわざ、向こうから会いに来てくれるんだ」
「ええ。絶好のチャンスです」
しかし、羽根が届いただけでいつ来るのかは分からない。それに、何故エヴァルタの屋敷なのか。よりによって元特級ハンターの屋敷に。
「来てください。恐らく、彼らが狙っているであろうトレジャーがあります。正確には、お屋敷ではなくそれの警護が依頼です」
エヴァルタの案内で、屋敷へ入る。1階の広間は彼女が入手したトレジャーが美術館のように展示されていた。
「凄いな」
「へー! きちんと整頓されてる! やっぱ男のハンターとはこの辺が違うわよねえ」
見えやすい光源の加減や角度が意識された展示で、大きな謎の機械から小さな砂のような宝石の入った瓶、古代の書物らしきものに、武器の数々。クリューとリディは感嘆の声を上げた。
「ふふ。依頼とは言え、ここに人を招くのはやっぱり楽しいわね」
「…………」
「何かしら? えっと、貴方は」
くすりと上品に笑うエヴァルタ。それを、クリューは不思議に思った。
「申し遅れたな。俺はクリュー。ギルドには所属してない、西方のハンターだ。ネヴァン商会を追っている」
「あたしはリディ。こいつのチームメンバーで、元コレクター」
「クリューさんに、リディさん。改めまして、私はエヴァルタ・リバーオウル。貴方達より、先輩って感じかしらね」
違和感は、これだ。どう見ても、年齢はクリューより少し上くらい。サーガは勿論エフィリスより年下であろう。なのに、その余裕のある佇まい。この、大量のトレジャー。そして、既にハンターを引退していること。
「……失礼だけど、若い、わよね。怪我か何か?」
リディが訊いた。
「いえ。私は『不死身』の二つ名の通り、怪我も病気もすぐ治る。引退したのはかなり前なのよ。もう20年くらい」
「?」
さらに首を傾げるふたりを見て、エヴァルタは嬉しそうにくすくすと笑った。
「さ、そんなことより。ネヴァン商会の対策を考えないとねっ」
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