第60話 人と獣

「囲まれてる」

「!?」


 結果的に。港街に2週間滞在し、ギルドメンバーに依頼して聞き込みを続けたが成果は無かった。オルヴァリオはサスリカを人目に付くやり方で運んではいないらしい。そんな初歩的なミスは、やはり奴らはしない。

 とは言え、『とにかく探し回る』しかクリュー達に取れる手段は無い。あわよくばサスリカが、古代技術を使って何か痕跡を残してくれていることを期待して。

 街から出て、さらに数日。森の周囲をぐるりとした街道の途中で、エフィリスが立ち止まった。


「……分かるのか」

「まあ勘と経験だ。前方の岩影と、森の方にも。あと背後。盗賊かネヴァンか、どっちが良い?」

「そんな悠長に話してる暇あるの? ここまで無警戒で、どうすんのよ」


 リディは慌てて弓を取る。だがそれを、サーガが制した。


「えっ」

「見ていてください」

「!?」


 エフィリスは大剣を抜いて、構えた。


「『釣れた』な。案外早かった。オルヴァリオが居りゃ、ここで対人の剣の指導もできたんだが。——サーガ」

「はい。まあ十中八九ただの盗賊でしょう」


 炎を操る剣。エフィリスがそれを横なぎに振るうと、炎が形を成し、刃となって放たれる。


「!!」


 前方の岩が爆発した。盗賊らしき男達が数人吹き飛んだ。


「くそっ! 遠距離攻撃だ! 近付いて殺せ!」


 それを見て、森の方からも姿を現す。雪崩のように、こちらへ突撃してくる。


「じゃあクリュー。あいつら任せられるか? マルも手助けしてやれ」

「ああ分かった」

「う、うん」


 クリューは臆さず、銃を構えた。一直線に突撃してくるなど、鼻で笑ってしまうほどに杜撰だ。


「!!」


 全部で6人。クリューは全弾命中で頭や胸を撃ち抜いた。


「……がはっ……?」


 何が起こったか分からない。盗賊達はそんな表情で倒れた。


「……必要無かったね。クリューさん上手だよ」

「ありがとう」


 そう言ってほっとひと息ついたマルは、狙撃銃で背後の盗賊10人を全てヘッドショットで皆殺しにしていた。


「中々良いな。『連射』できる銃は中央には無いのか?」

「そうね。技術大国ラビアと同盟国ルクシルアの経済協定の利点よ。あるにはあるけどまだそこまで流通はしてない。だから、狙いを分散させながら突撃するあのやり方は割りと『あり』なの。こっちからしたらただの的だけどね」


 リディもひと息つく。このレベルの盗賊ならなんなく突破できると分かったからだ。目を見張るのは、やはりクリューの成長だろう。


「うーむ。やっぱネヴァンじゃ無えか。まあ奴らにとっちゃ俺達は別に排除すべき障害でもなんでもねえしな。見付からなければそれで良し、か」

「ああ、わざと『襲いやすい』ようにしてたのか」

「まあな。街道を馬車も無しにど真ん中歩くとか、いかにも素人っぽいだろ」

「……無知な盗賊だから釣れたのでしょう。ネヴァンにはこちらが『特級』だと知られています」

「確かに」


 死体は放っておいても良いが、わざわざ大きな痕跡を残すこともない。サーガが素早く穴を掘り、エフィリスの剣で焼いて埋める。


「どうだ?」


 途中、エフィリスがクリューに訊ねた。彼は自分の手を握ったり開いたりしている。


「さっき初めて、人間を殺したろ」

「…………」


 クリューの覚悟は尋常ではない。安定的な生活を捨ててこんなところまで来ていることで証明はされている。だが、今やっと、エフィリスの目の前で行動に移したのだ。

 彼は少し考えて。


「……正直、『こんなものか』と言った所だな。頭では人間だと理解しているが、感覚的にはあれは、猛獣と変わらない気持ちだ」

「ははっ!」


 エフィリスは吹き出してしまった。この男は完全にイカれている。それがあまりにもトレジャーハンター向きで、可笑しかったのだ。


「あーそうだ。『人と獣』があるんじゃねえ。『人も獣』なんだよ。この世はシンプルだ。『自分と家族と仲間以外は殺して構わねえ獣』。良いイカれ具合だ。お前はハンターとして大成するよ」

「褒めているのか?」

「勿論」


 笑いながら、盗賊の死体を焼き尽くした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る