第51話 旅の途中

 ラビア王国。技術と資源が豊かな、大国に匹敵する国力を持つ国だ。戦争など無縁。トレジャーハンターも数多く抱えるルクシルアの同盟国。

 クリューとオルヴァリオの故郷は、首都ではないが都市と言って差し支えない大きな街であった。


「へぇ、都会じゃない」


 リディが感心する。馬車用に舗装された道、区画整理された建物。歩道にもゴミなどは落ちていない。手入れの行き届いている綺麗な街だった。つまり、無法者代表であるハンターが居ない街。ギルドの無い街である。


「……意外と早く帰ってきちまったな」

「ああ。俺も父と口論して出てきたから少し気まずい」


 ぽつりとオルヴァリオが呟いた。


「寄るなら寄ってこいよ。別に皆で俺の屋敷に来なくても良い。話をするだけだからな」

「いや、俺は家には寄らない。知り合いに見付かるのも嫌だし隣街で宿でも取ってるさ。じゃあまたな」

「ああ」


 街の入口まで来て、オルヴァリオが引き返した。クリューも特に止めない。彼は自分の屋敷へ向かってすたすたと進む。当然のように、サスリカはクリューに付いていく。


「えっ。ちょ。あたしは?」

「自由行動だ」

「はぁ?」


 キョロキョロとふたりを交互に見て。リディは仕方なくクリューの方へ向かった。


「ちょっとなにあれ?」

「……オルヴァは、ちょっと色々あってな。家族の問題とか。ひとりにさせた方が良い」

「なによそれ。気になるわね」

「そうか?」

「そうよ。話してくれても良いじゃない。あんた達はあたしの家のこと知ってるんだし」

「ふむ確かに」


 思えば。クリューの話はよく聞く。『グレイシア』について。商人である家について。だが。

 オルヴァリオの話は聞かない。彼が話さないのだ。どちらかというとクリューよりお喋りな彼が。


「リディはオルヴァをどう思う?」

「どうって? 剣の話なら、素直だし筋は良いと思うわ」


 クリューの質問に、リディは首をかしげた。


「性格とかそういう」

「あー。あのね、ずっと思ってたけどあんたら結構似てるのよ。喋り方も普段のテンションも。流石同郷ねって感じ」

「そうなのか?」

「まあ自覚は無いでしょうね。……まあ、あんたは『一直線』で、オルヴァリオは『寄り道』も楽しむ感じね。特に目的が無いのは、あたし寄りだけど」

「……人を殺せると思うか」

「!」


 ずばりと出てきたその質問には。リディは答えられなかった。


 クリューの実家は、リディの居たハクラー邸よりひと回り小振りな屋敷だった。門をくぐると、『坊っちゃん』の帰りに気が付いた使用人がぱたぱたと慌ててやってくる。


「クリュー坊っちゃん!」

「……アーリャか。久し振りだな」


 エプロンを着けた黒髪の女性。外見は30代くらいだろうか。線の細い美人だとリディは思った。


「お帰りになられたのですね。そちらは」

「トレジャーハンターの仲間だ。リディとサスリカ。気にしなくて良い。今日は父上に話があって来たんだ」

「……かしこまりました」

「リディを客室に案内してやってくれ。父上が居るなら俺から向かおう。サスリカ、お前も来てくれ」

『ハイ』

「えっ。なんで?」

「後で話す」


 リディとサスリカはぺこりと頭を下げた。そこでリディと一旦別れて、クリューは父親の書斎へと歩みを進める。


「父上」


 ノックをして、返事を待たずに入る。


「……クリュー。旅は終わったのか」


 約半年振りの帰宅と再会。父親はクリューの格好を見て大方の予想を立てていた。


「まだです」

「だろうな。腰に銃がある。ならば何故帰ってきた」


 ふたりの間に、前置きや世間話は要らない。


「『ネヴァン商会』について、何かご存知ありませんか。父上」

「!」


 単刀直入。この為に来たのだから。そして、その質問でこの父親はすぐに思い至る。


「……ルクシルアの『グレイシア』盗難事件。犯人はお前ではなくネヴァン商会という訳か」

「耳がお早い。その通りです」


 当初、そのニュースを見て彼はクリューが盗んだと思った。馬鹿なことをしたなと。結局100億など不可能だったのだと。

 しかし違った。帰ってきたクリューは『旅の途中』だった。

 そして、真犯人の名前。


「……トレジャーハンターで100億稼ぐより危険だぞ」

「何ら問題ありません。父上の知る全てをお教えください」


 やはり彼はネヴァン商会を知っていた。クリューはにやりと口角を上げた。

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