第50話 クリューの決意
「俺の方もまた調べてみるが、忘れるなよ。俺達は『組織』を相手にするんだ。『探っていること』すら知られるな。どこから不意打ちで暗殺されるか分からねえからな」
ルクシルアでエフィリス達と別れて。クリュー達はラビア王国へやってきていた。クリューの実家、スタルース商会を訪ねるためだ。
また、馬車での移動。エフィリスのチーム専属の快適な馬車ではなく、普通の乗り合い馬車であるが。
「……悪いな」
「えっ?」
ガタガタと揺られながら、クリューが呟いた。リディが聞き返す。
「本来、『トレジャーハンター』には必要ないのにな。今やっていることは」
「…………」
リディとオルヴァリオで、お互い見合わせた。今更こいつは何を言っているんだ? とばかりに。
「……だってさ。言ってやってオルヴァリオ」
「……あのな、クリュー」
ふたりして溜め息を吐いた。
「俺はトレジャーハンターをやりたいが、特に目的はねえ」
「あたしはお金稼げればなんでも」
「で、俺達は『仲間』だろ」
トレジャーハンターになったばかり、とは言え。バルセス地方で数ヶ月狩猟をやってきている。
「お前が『やりたい』ことなんだ。そりゃ協力するだろ」
「オルヴァ」
「今それより優先すべきこともないしな。気にするなクリュー。なんだかんだ、俺達も見たいんだよ。『古代人の復活』を」
「……」
「あと、あんたの恋路の結末もね」
「リディ……」
そもそも、彼らはサスリカ以外のトレジャーと呼べるものを何も見付けていない。トレジャーハンターというよりは最早『無職の若者』でしかないのだ。『やりたいこと』を何よりも優先する青春の時代。
「古代文明の解明。俺達も伝説に立ち会わせろよ。クリュー」
「……ありがとう」
改めて、クリューは頭を深く下げた。本来自分ひとりでやろうとしていたことだ。それに協力してくれる。願ってもないありがたいことだった。
「そういえば、サスリカは『グレイシア』に心当たりは無いのか? 知り合いとかさ」
『分かりません。絵を見ても。実際に見てみなければ』
新聞を買って広げる。この時代にはまだ、写真は無い。盗まれた『氷漬けの美女』の絵は描いてあるが、これでは分からない。
「俺達より少し色の付いた肌でな。綺麗なんだ。黒く艶やかな髪で。眼は閉じていたが、鼻は低く、口は小さいんだ。恐らく実年齢より幼く見える顔立ちだと思う。それが美しいんだ」
『……黄色人種の特徴ですね。確かに、この世界ではまだ、白人種以外見ていません。いえ……正確には白人種ではないのですが』
「? なんの話だ?」
クリューが、2度見た『氷漬けの美女』の特徴を語る。思い出しながら、楽しそうに。それを、サスリカは考察する。ガルバ荒野で検死をした、この大陸の人間の特徴と併せて。
『……少なくとも、「古代人」と「現代人」は繋がっていません。トレジャーハンターが追っている「古代文明」の人達は、「あなた方」の先祖では、無いのです』
「……そうなのか。末裔という男性はバルセスに居たが」
キュインと、駆動音が鳴った。寂しそうな音だった。
『一度か二度、完全に滅んでいます。もう、途絶えてしまった』
「…………」
「……けど」
「ああ」
『ハイ』
自分達が滅びるのは、悲しいことだ。サスリカがひとり復活したところで、彼女は子を宿せない。
だが。
『その「グレイシア」が復活すれば。世紀の発見どころではありません。「血」を、存続させることができるのです』
「…………任せろ」
絶滅。今を生きるクリュー達には想像もできない危機だ。それを回避する細い糸のような希望がある。
「クリューの恋が実るかは別の話よ?」
「勿論分かってる。『彼女の解放』が第一だ。もし望まぬ復活なら、また氷で覆えば良い。俺はトレジャーハンターを辞め、家業を継ごう」
「…………」
「まずは、ネヴァン商会だ。まだ何も掴めていない。奴らを突き止めねばな」
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