第49話 自称トレジャーハンターの無職

「それより俺は、『狙撃銃』が気になっている。ドラゴンを撃ち抜いたそれだ」

「ひっ……」


 クリューはマルが抱える長い銃を指差した。ずっと気になっていたのだ。こんなに長い銃はリディの屋敷にもなかった。


「こ、これは……。特注なので流通はしていないわ……」

「そうなのか?」


 大事そうに両手で抱えている。この小さな少女が。あの『一撃』を見せたのだ。射程、威力、弾速。クリューの想像を越えていた。


「そうね。最近できたものよ。まだ一般人が買えるものじゃないけど。照準器を使って遠距離の目標を精確に撃つ銃のこと。普通の銃より弾が重いの。連射はできないから、一長一短だけど。でも上手く使えばその効果は見た通り。……まあ、中でもマルは群を抜いて上手だけどね。これを持ってもあたしやあんたじゃドラゴンの眼なんか撃ち抜けない」

「そっ。……そんな」


 リディが説明する。マルは褒められて照れている。見れば見るほど子供だ。大人しい普通の女の子。これっぽっちも強そうには見えない。まさか『特級ハンター』などと。


「どこまで遠くを撃てるんだ?」

「え、えっと……。1キロくらいなら、眼は無理だけど頭とか心臓なら、外さない、かな」

「……!」


 緊張した様子で。軽く答えた。今日は広場に遊びにいこうかな、くらいの声で。


「……威力は落ちないのか?」

「急所に当たれば死ぬと、思うわ。貫通はしないかもだけど……」


 1キロ先など。景色として『見え』はするだろうが。そこへ、狙って銃を撃つなど。それでいて、急所を外さずに殺すなど。


「マルは天才って奴だ。『銃』の才能。100年前に生まれてりゃ一生埋もれてた才能だな」

「……えへへ」


 エフィリスがマルの頭を撫でた。リディは改めて3人を見る。エフィリスは有名人だが、サーガとマルは余程のファンか関係者でなければ知らないだろう。だが、エフィリスの『おまけ』などでは決して無い。


「マルはどこで?」

「ああ孤児だよ。俺が拾われた院の出だ。たまに帰って剣や弓の指導してんだ。んで、そん時に見付けた。玩具銃でバシバシ的に当てててな」

「孤児……」

「なんだ、お前ら『家』があるのか。全員か? なんでトレジャーハンターなんかやってんだよ。死ぬぜ?」

「…………」


 家がある。家族が居る。エフィリスとマルには『理解できない』心地だ。勿論孤児院は家だし孤児たちは仲間で家族だ。だが。

 違う。


「あたしはもう縁切ったわよ。ていうかあたしも元々捨て子だし」

「俺はトレジャーハンターに憧れてたんだ。家とかなんとか、関係無いぜ」

「クリューは?」


 トレジャーハンターとは、子供が憧れる職業ながら。実際はトレジャーハンターに『なるしかなかった』者が圧倒的に多い。オルヴァリオのような例は少ないのだ。皆どこかで諦める。『死ぬ危険』など、中流家庭に生まれていればそこに真面目に飛び込もうとする馬鹿は少ない。子供が憧れるのは『特級ハンター』などのきらびやかな上位一部であり、実際は『無職』から始まり、低賃金の雑用でもなんでもやらなければならない。猛獣を避けて遺跡に入り、トレジャーを見付けなければ1円の金にもならない。何故なら『戦いの技術』など、教わる金があるならまともな就職をするからだ。素人のまま戦いに放り出され、運良く死ななかった者がトレジャーハンターになっていくだけ。

 だが、何事にも例外はある。特例はある。クリューもそのひとりだ。


「俺は『氷漬けの美女』の氷を解かしてプロポーズするのが目的だ。だが実際短期間で100億を用意しようとしたらトレジャーハンターの『一発』に賭けるしか無い。だからやっている」

「……ほぉ。どこが良いんだ? 『グレイシア』の」


 リディは仕方なく。オルヴァリオは幼稚だが健全だ。そしてクリューは。

 トレジャーハンターは楽しいが、突き詰めれば『別にならなくても良い』。


「一目惚れだよ。見ていると、【心が浄化されていく】ような感覚になる。惹き付けられるんだ」

「……分からねえでもねえが、それでここまでやるかよ」


 ギルドに登録していない以上、公的な扱いでは彼らは『自称トレジャーハンターの無職』だ。世間体や安定収入など捨て去っている。

 一攫千金の為に。想い人への一途を貫く為に。

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