第35話 機能的な本心
「やあ、君達がリディの友人か」
「!」
リディが選んだいくつかの銃を持って、庭の射撃場にやってきた。試し撃ちも兼ねて訓練をしようとしている時に、外から声を掛けられたのだ。
「……ハッシュ」
「おかえり、リディ。今回は短い『家出』だったな」
線の細い、茶髪の男性だった。垂れ目気味で、優しそうな印象を受ける。貴族の服を着ており、佇まいも上品だ。
「ハッシュバルト・コースター。この屋敷の長男だよ」
「初めまして。クリュー・スタルースと申します」
クリューもぺこりと挨拶をした。貴族風の、胸に手を当てる挨拶は知っているが、久々過ぎて少しぎこちなくなってしまった。
「ふうん。強そうな男じゃないか。どこの御曹司だい」
「あのねハッシュ。クリューと、あともうふたり居るけど。彼らは『仲間』なのよ。トレジャーハンターのね」
「まだ遊んでいるのか。そろそろ父上に叱られるぞ」
「遊びじゃないわよ!」
雰囲気に余裕を持つハッシュと反対に、リディは急に声を荒げた。クリューも驚く。
「今、本当に大事なの。邪魔しないでってあの男にも言っておいて」
「父親を『あの男』呼ばわりはひどいだろうリディ。君の救い主なのに」
「どこがよ! 束縛キモオヤジのくせに! 本当は帰るつもりなんて無かったんだから!」
「口が悪いな。トレジャーハンターの影響だろう。彼らは生活レベルも衛生環境も悪い。リディが居るような場所じゃない」
「あたしは元々『そっち』の人間よ! もう良いからあっち行って!」
「……ふう」
けたたましく言い放ったリディに、ハッシュは溜め息を吐いた。そしてくるりと踵を返す。
「まあ、僕は干渉しないよ。君のやることにね。君が居なくてもこの屋敷は安泰だから。だけど父上はどうかな。君はあまりにも、死んだ母上に『似すぎている』から」
「!」
「君をいつか、『継母上』と呼ばなければならない事態にならなければ良いけど」
「死ね! って言っといて!」
「自分でどうぞ。ていうか部屋をコレクション用にいくつも使わせてもらっておいて、父上に逆らえるのかい?」
「死ね!」
「はっはっは……」
笑いながら、背中に罵声を受けながら。ハッシュは屋敷の中へと戻って行った。
「…………」
「…………」
残されたクリューとリディは、しばらく沈黙していた。リディは俯いたまま。
「!」
ズドン、と銃声が轟いた。リディは驚いて顔を上げる。
クリューが、試し撃ちをした所だった。
「クリュー」
「すまないが、今の俺には『氷漬けの美女』『ネヴァン商会』しか見えていない。リディには普段から感謝してる。リディの家のことは、求められれば協力しよう。だが、冷たく思うかもしれないが正直言うと『そこまで興味は無い』。トレジャーハンターを馬鹿にするあの男は少し不快だったが、だからと言って何をするつもりも無い。俺がトレジャーハンターやコレクターを素晴らしいと思う気持ちに少しの翳りも無い」
「……!」
ズドン。今度は別の銃で撃った。ひとつひとつ、取り回しや反動、狙いやすさなどが違う。クリューはふむと何度か頷きながら、リディに一度も目もくれずに銃を吟味している。
「オルヴァなら、リディの話を聞いてくれると思うぞ」
「え……」
色々あるのだろう。リディにも。自分がお嬢様であることを否定していたこともある。家族とうまくできていないのだろう。髪の色からして、血縁のある家族ではないのかもしれない。
だがクリューは。彼の思考はもっと『機能的』だった。銃の話を聞いて、より顕著になっているようだ。
「あいつは俺と違って優しいからな。仲間なんだから、何でも話したら良い。俺にしてくれても良いが、期待する答えはできないかもしれない。今の俺には銃しかない。もしこれを使ってリディの役に立てるならいくらでも撃つがな」
「…………クリュー」
だが。
彼の言葉は何故か、温かくリディの胸に流れた。飾りの無い、素っ気ない言葉だが。だからこそこの男の『本心』なのだと安心できる。そんな気がしたのだ。
「おーい。色々買ってきたぞー」
『ただいま戻りました』
そこへ。ふたりも戻ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます