第34話 クリューと銃

「銃は剣と違ってね。一定の技術で造られていたら性能にあんまり違いは無いの」

「そうなのか」


 壁一面に、様々な時代の、様々な形の銃が飾られている。専用の棚も置かれており、ガラスのケースの中にも高価そうな銃が見える。


「だから、あんたの手に馴染むかどうかが全てと言えるわ。後はまあ、どんな用途で使うかだけど。『対大型猛獣』『対人』『殺傷用』『威嚇用』『無力化用』みたいな、ね」

「なら『対人』『殺傷用』か」

「あら、分かってるじゃない」


 クリューは大口径の銃を手渡された。当然ながら弾が大きい程、『空間を抉る面積』が大きい。つまり生き物にとって致命傷を負わせられることになる。


「その通り、『犯罪組織』相手に『無力化』なんて日和ってる場合じゃないわ。敵と相対したら必ず殺さないと。『必殺』の銃を選ばないとね。けど、それには銃だけじゃなくてあんたの技術と知識ももっと必要になる」

「分かってる。俺は『氷漬けの美女』を救う為なら『なんだってやる』」

「……良い覚悟よ。オルヴァリオより『イカれてる』」


 クリューは表情を変えずにそう言い放った。彼は裕福な家庭に生まれた、平和な国の出身だ。戦闘のプロどころか、喧嘩もしたことが無い。

 だが。彼の内に秘められた『覚悟』は、非常に固いものだった。リディは自然と口角が上がる。


「さっき言った『一定の技術』ってのは、弾を込める機構や、『同じように撃った際の狙いの精密さ』のこと。後は火薬の量ね。現代の技術だと、もう結構完成されてるのよ。『簡単に人を殺す道具』として」

「剣より複雑だと思うが」

「武器としての成り立ちから違うの。剣は、『個人の武力』を強化する目的で発展してきた歴史がある。だけど銃は、そもそものコンセプトが『安価で同一規格を量産』して、『軍隊で扱う』ことなの。剣の始まりは『狩猟』だけど、銃の始まりは『戦争』だからね」


 リディは、あらゆる武器について詳しい。クリューはまだ何も知らない。だが、射撃の実力自体はバルセスを経て確実に伸びている。このまま、正統に上達させたいとリディは思っている。

 正しい知識を詰め込み、正しく訓練をすることで。


「『トレジャー』の銃とかは無いのか?」

「あるわよ。古代文明にも銃はあった。火や雷が出る銃とかね。『特級』になると、狙った獲物を自分で追う弾なんかもある。ここにもいくつかあるわ」

「ふむ」

「でも使わないわよ」

「何故だ?」

「不要だからよ。そもそも『銃』に、『銃以上の威力』は要らないの。だって、どんな銃でも『撃てば殺せる』んだから。取り回しと手入れだけ大変な『派手で強い銃』なんて無駄でしかない。それに、そんな銃で殺せば『誰が殺したか』まる分かりじゃない。組織相手にそれは悪手。剣もそうだけど、『誰が殺したか分からない』ようにするのは基本よ。だから誰でも使い得る武器で殺すの」

「……強い銃は、無駄か」


 トレジャーハンターなら。憧れるであろうとクリューは思った。そんな派手な武器は。街で流行する物語でも、派手な能力のトレジャー武器で巨大な猛獣を倒すものが人気だった。

 だが『対人』を想定した実戦では。


「『武器』に、『より効率的な殺傷能力』以外の要素は全部無駄よ。全ての無駄を排除して、機能性にのみ特化する。『だから』美しいの。あたしはそれに魅了されてコレクションを始めたんだから」

「……!」


 まあ、高価だったり実用的じゃないけど珍しい武器も一応コレクションするけど、と付け加えた。クリューは、ぶるりと震えた。

 自分は『氷漬けの美女』の為ならなんでもする。他はどうなっても良い。そう本気で思っている。目的の為には手段を選ばない。そういう『機能性の追求』が、クリューの頭にある。

 銃も同じ信念の元に、造られ発展していったのだ。『殺すことさえできれば他の機能は何も要らない』と。

 彼は、リディに勧められて銃を始めて本当に良かったと思った。

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