第17話 ロマンチック

「……誰? そのおじさん」


 予め決めていた宿へと戻ってくると。

 クリューは、小柄な壮年の男性と一緒に居た。


「お。あんちゃんの仲間かい」

「ああそうだ。剣士のオルヴァリオとコレクターのリディ」

「そうかそうか! よろしくな! いやあ、男前と別嬪じゃねえか! そっちのあんちゃんも黒髪だな! 古代人の末裔じゃ!」

「……えっと」


 オルヴァリオとリディは困った。妙に上機嫌な男性の登場に困った。


「オルヴァ。リディ。この男性は古代人の末裔らしい。『氷漬けの美女』についてや、古代について色々と教わった」

「なに。古代人の末裔?」

「いや胡散臭くない? 1万年前の血筋とか証明できないでしょ」

「まあ、これが誰も信じてくれんのだがね。わっはっは」

「開き直ってるし……」


 リディは怪訝な表情になった。確かに、胡散臭そうな小柄な男性がさらに酒に酔っているのだ。信用はできないだろう。


「ま。そういうことでよ。俺は帰るわ。頼むぞ。クリュー」

「ああ。戻ってきたら報告する」


 男性は立ち上がり、宿屋を後にした。詐欺師にしてはあっさり帰ったなとリディは思う。


「どんな話を聞いたのよ」

「『氷漬けの美女』を安全に解かす方法が遺跡にあるらしい」

「えっ!」


 そして驚いた。

 自分は遺跡にいかないのだから、騙しようがない。つまり末裔という話も信憑性が増すのだ。


「あれは何らかの装置で、1万年前の大寒波から逃がす為に作られたと。何をしても解けないというのは、装置が働いているからだ。想定された方法でなければ解かせないらしい」

「そうなのか。じゃあ末裔としても、解かしたいのか?」

「だそうだ。『彼女』はつまり、あの時代で最も『生き残るべき』と判断された人物ということになる。恐らくは王族の娘であると」

「……あの子さえ生きていれば血は途絶えないってこと? あの子と未来人に託して、滅んだってこと?」

「そうなるな」


 1万年前に、何があったのか。男性から聞く話でも、確かなことは少ない。だが、巨大な王国があったことは遺跡の存在を見ても明らかである。未だにトラップが作動していることからも、『氷漬け』が装置だとしても一応不思議ではないと言える。


「あの男性が俺に語ったのはそれだけだ。解凍装置を見付けて、解かしてやりたいと。一族の悲願らしい。つまりハンターに発見される以前から、末裔達は『彼女』の存在を知っていた」

「……そんなの、あたし達じゃなくてルクシルアに言えば」

「奪われる形で掘り返されたそうだ。だから信用ならないと。珍しいものだと見世物にする点では、俺も気に入らないがな」

「…………」


 古代文明の技術は、現代の想像を軽々と越える。そんな場面を、リディは見てきたのだ。これから回収するつもりの物も、それに類する物だろう。


「……あの遺跡には、まだまだ眠ってるのね。10年間ハンターがどれだけ雪崩れ込んで来ても跳ね返したトラップの先に」

「らしいな」

「なんだそれ。トレジャーハンターの血が騒ぐぜ」

「まだ何もハントしてないくせに」

「昨日熊をハントしただろ」

「あー……」


 わくわく、してきたのだ。3人とも。


「『彼女』を助ける希望が形として見えてきた。俺は俄然やる気が出てきたぞ」


 クリューは、装置と聞いて。安全にあの氷を解かして、彼女を救える可能性があると知って。


「他にもお宝が眠ってるなら。ハンターの減った今がチャンスだろ。全部俺達のものだ」


 オルヴァリオは、憧れのトレジャーハンティングを目の前に。少年のように目を輝かせて。


「……1万年前の『願い』ね。なんかロマンチックじゃない。応援するわ。クリュー」


 リディは正直そこまで興味は無いが。あの氷が解けるならなんだか面白そうだし、金になるならばなんでも良い。


「じゃあ明日に備えて休もう」

「ああ」

「ええ。お休みなさい」


 3人の気持ちが高揚した所で。


「だから! なんであんたらと一緒の部屋なのよ!! 気ぃ遣いなさいよ男共っ!」

「いやテントじゃ一緒だったろ」

「それとこれとは別っ!!」

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