第16話 古代人の末裔
「さあ、最後の休息よ。今日一日休んで、明日山を登りましょう」
「分かった。俺は『氷漬けの美女』について関連するような話なんかが無いか調べてこよう」
「ブレないわねあんたも。オルヴァリオは?」
「俺は普通に酒でも呑むかな。雪国に合う強いやつを」
「あら、あんたやれる口なの?」
「なんだお前もか」
「そりゃあたし、お酒コレクターだから」
「なんだよそれ……」
麓の町へと辿り着いた。大陸の北端にあるこの町は、主に観光で栄えている。『氷漬けの美女』発見以降は客数も増えている。クリュー達のように真っ直ぐ北上して向かうルートの他に、山脈を使って向かう、時間が掛かるが比較的安全なルートもあるのだ。今は冬だが、春になると馬車も多く使われる。
「氷漬けパスタ。冷凍ビール。……あやかり過ぎだな」
クリューは町を歩いていて、目につく物を観察していた。
「流石は『氷漬けの美女』の出所か。本人はルクシルアに居るのに」
「おっ。今あんちゃん、『氷漬けの美女』っつったな」
「?」
ぼそりと呟くと、声を掛けられた。振り向くと小柄の壮年男性が立っていた。
「観光かい?」
「……そうだな。一応」
「もしやトレジャーハンターじゃねえよな?」
「…………」
トレジャーハンターというのは、あまり言わない方が良いのだろうか。この辺りの知識もクリューには無い。どうしてこの男性がそんなことを訊いてくるのかも。
「……興味はあるがな。お宝探しはやったことはない」
「そうかい。じゃあ山は登らねえのか?」
「どうしようか仲間と話している所だ」
「おやお仲間が?」
「今日は自由行動でな。……あんたは俺に何の用だ?」
「いやあ、山の遺跡に用があるんだがな。俺ひとりじゃ足腰が立たねえってんで、ハンターを探してたんだ」
「遺跡に? 何故だ」
「…………ハンターでねえあんちゃんには教えられねえなあ」
「そうか」
何か事情があるように見えたが、教えられないならそれで良い。
「…………あんた、古代人の末裔か?」
「おっ。分かるかい」
違う。
『氷漬けの美女』に関係することならば何であろうと知りたがった。クリューはこの男性を逃したくはなくなった。
「服装が町の人間と少し違う。それに遺跡はもう掘り尽くされたのだろう? 用などある訳が無い」
「……あんちゃんやっぱりハンターじゃねえか」
「…………いや、まだだ。これからなろうって思ってるだけだ」
「だが遺跡には行くんだろう? 酒場へ行こう。詳しい話をさせてくれ」
「頼み事ならもっとベテランのハンターにすべきではないのか?」
「構わねえさ。それに、そんなハンターなんかこの町に居ねえよ」
過去に大勢のハンターが押し寄せたと言うことは、それだけ未開地の開拓が進んだと言うことでもある。栄えてはいるが、ハンター自体は居ない。そんな変わった町である。
「『グレイシア』の服装を見たろ? 随分軽装だ。あの時代、この地方は別に氷雪地帯じゃあなかった。滅亡したんだよ。急激な寒冷化でな」
「聞いたことはあるな。1万年前だとか」
「そうさ」
酒場にて。男性はビールを呑みながら語る。
「殆どねえが、記録が残ってる。俺の一族だけにな。これは誰にも見せちゃいねえ。今の王様にも、ルクシルアの学者にもな」
「なに」
「伝承も殆ど潰えたがな。『あの』氷は、人工物だと伝わってる」
「!」
あの女性を。クリューを惹き付けてやまない彼女を閉じ込めた永久氷塊が。
大寒波と関係の無い人工物であると。
「いや、大寒波を利用した装置だ。つまり『死の時代』から逃がす為に、あの嬢ちゃんは装置に入れられたのさ。氷の中じゃ時間も凍って停まる。タイムカプセルになる」
「……馬鹿な。そんな技術が」
「あるんだよ。あったんだ。1万年前の古代にはな。まあ、機械の理屈は知らねえが、つまり——」
それの、意味する所は。
流石のクリューもすぐに思い付く。
「『解凍方法』があるし、彼女は間違いなく『生きている』——!」
「その通りさ。あんちゃん察しが良いねえ」
「……!」
その情報だけで。
クリューにとってどれだけ価値があるか。
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