第5話 リディ

「で、これからどうするんだ? オルヴァ」

「ああ。北へ向かう。早速バルセスへな」

「良いな。テンポが良いぞオルヴァ。そうこなくては」


 彼らの地元であるラビアや、ここルクシルア共和国のある辺りは、一年中温暖な気候が続く土地である。

 『氷漬けの美女』——グレイシアが発見されたバルセスという土地は、遥か北方の、世界地図の端にある極寒の大地だ。


「だが、交通が不便らしくてな。取り敢えず馬車で行けるところまで行こうと思うんだが、そこからは徒歩になるかもしれん」

「構わないな」

「だが相当な距離があるぞ」

「構わないな」

「……マジかよ」

「その程度で音を上げてはトレジャーハンターとして失格じゃないのか? オルヴァ」

「……むっ」


 地図を広げながら、乗り合い馬車に揺られるふたり。既に美術館のある街からは出発していた。


「(…………トレジャーハンター?)」


 ここに、クリューとオルヴァリオの会話を耳にした女性が居た。軽装で露出が多く、今流行りの臍を出すファッションをしている、底の暑いブーツを履いた金髪の女性だ。荷物は腰にポーチを巻いて、手に小さなバッグがひとつ。とても乗り合い馬車に乗る格好には見えない。


「それで、そのトレジャーハンターとはそもそもどういうものなんだ。俺は詳しくないぞ」

「おっ。なら説明しよう。トレジャーハンターとは」


 女性はトレジャーハンターという言葉を聞いて、ふたりの会話内容に興味を持ったため聞き耳を立て始めた。


「勿論命懸けでお宝を取ってくる仕事のことだが、金にならなければ仕事にはならない。需要が無いとな」

「だが需要は高いんだろう?」

「そうだな。大きな戦争の無い今の時代は、技術や経済の発展で国同士が競ってる。何より『国家』による生活の安定と安全の保証から、近年はどの先進国でも人口爆発だ。土地が足りないんだよ」

「それなら、争うよりも新天地開拓という訳か」

「その通りだ。……ていうか学校でも習ったがな。今ある地図の『外側』には、俺達がまだ知らないものが沢山ある。危険な環境や生物も当然な。それを調べるのが、トレジャーハンターだ」

「……トレジャー関係無いな」

「まあそこは、時代と共に言葉の使い方も変化したんだろ。とにかく、優秀なトレジャーハンターは国に雇われ、大金持ちにもなれる。古代文明を持ち帰って技術革命を起こせば国家規模の金すら入るかもな。俺が言っているのはそれだよ」

「100億……」

「そうだ。夢じゃない。開拓した土地の権利を得るハンターも居るが、それは売れば良い。新天地の値段は高いぞ」

「なるほど」


 意気揚々と、楽しそうに説明するオルヴァリオ。熱心に聞き入るクリュー。


「だが、そんなにほいほい新天地が手に入ることはない」

「何故だ?」

「言ったろ。危険な環境や生物が居る。今人類は大陸の中心と南側までを征しているが、それはその辺りの土地が人間にとって安全だったからだ。外側は危険だから、そこでは人類は繁栄しなかった。それを技術で無理矢理開拓してやろうってんだからな」

「……そんなに危険なのか」

「そうだ。だから次の街では、武器なんかも買った方が良いかもな」

「武器か」


 クリューは、この20年間特に武術や剣術などの訓練はしていない。そもそもが商人の息子であるからだ。親に習わされたものとしては礼儀作法くらいのもの。あとは学校教育のみである。


「俺は剣術をやっていたから、剣を買おうと思う。クリュー。お前は銃でも買ったらどうだ?」

「…………ふむ」


 銃は、クリューの生まれる前にあった戦争で使われた非常に強い武器だ。彼らにも知識はある。火薬で鉛玉を飛ばす機械だと。特別な訓練も無く、引き金を引くだけで人を殺せる。子供も老人も等しく兵士になる武器だと教わった。


「駄目よ。あんた達武器ナメすぎ」

「!」


 聞き捨てならないと。

 女性が会話に割って入った。


「剣術やってたのに、旅立ちに師匠が剣も持たせてないの? それに、事前知識も訓練も無い素人に銃なんか誰も売らないわよ。あんた達どこの田舎から来たの?」

「なっ。なんだお前は。いきなり」


 クリューの質問に、女性は胸に手を当てて名乗った。


「あたしはリディ。コレクターよ」

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