第6話 変人

「コレクター? なんだそれは」


 クリューは首を傾げた。金髪の女性、リディがそう名乗ったのだ。


「はあ? あんた達トレジャーハンターのくせに何にも知らないの?」

「いやいや、俺は知ってるぞ。一緒にするな」


 呆れた声を出したリディに、オルヴァリオが反論する。


「クリュー。コレクターってのは文字通り蒐集家だ。今の時代じゃ、トレジャーハンターの持ってきたお宝のバイヤーってイメージだな」

「なるほど。買い手か。……こんな若い女がそんな金を持っているのか?」

「失礼ね! あんた達よりは持ってるわよ! 無名ハンター!」


 腰に手をやってぷりぷりと怒るリディ。クリューとオルヴァリオは困ってしまった。


「話を元に戻そう。コレクターが俺達に何か用か」

「あのねえ。あんた達駆け出しハンターでしょ? 武器も持ってないなんてあり得ないわよ」

「だから買いに行くんだろ。これから」

「だから、そんなんじゃ騙されるって言ってんのよ」

「騙される?」


 リディが何を言いたいのか、いまいち分からない。武器を買う程度の金はある。


「見た目だけ飾った粗悪な武器を高値で買わされるって言ってんの」

「なに」

「あんた達に分かるの? どの剣が良いか。どんな銃が良いか」

「…………」


 答えられない。そんな様子を見て、リディはにやりと笑った。


「だから、あたしが選んであげるわよ。武器コレクターのリディちゃんが」

「!」


 そんなやり取りをして。

 クリューとオルヴァリオにリディを加えた一行は、ルクシルアの北端の街へとやってきた。


「あんた達名前は?」

「俺はオルヴァリオ。こっちがクリュー。ラビアから来た。察しの通り、駆け出しても無いトレジャーハンター志望さ」

「なんか良い所の坊っちゃんて雰囲気だけど。なんでハンターなんかやってんの?」

「別に良いだろ何でも」

「あっそ」


 リディはじろじろとふたりの格好を見定める。裕福な暮らしができる家庭に生まれ育ったら、命懸けの仕事になど普通は就かない。このふたりから匂う香りは、きちんと教育を受けた上流階級のそれだと彼女の鼻が告げていた。


「……10年前に、あの『グレイシア』発見からバルセス行きは沸いたのよ。皆がバルセスへと向かった。……けどもう、その波も落ち着いて来たわね。あの辺りの遺跡はあらかた掘られ尽くしたと思うわ」

「他のハンターとかは関係無いな。俺が行きたいだけだ」

「どうして?」


 この街から北へ抜ければ、ルクシルアの領土外に出る。バルセスまで広大な雪原を行くことになるのだ。


「俺は『氷漬けの美女』を買うつもりだからだ。彼女の居た場所は一度は見てみたい」

「……は? グレイシアを? 買う?」

「だから100億集めなくてはならない。その為にトレジャーハンターをするんだ」

「…………」


 クリューの口から出た言葉に、リディはぽかんとしてしまった。

 ぽかんとした顔でオルヴァリオを見る。


「……なにそれ?」

「本気だぜ、クリューは。本気でグレイシアを買おうとしてる」

「そんなの無理じゃない」

「だが言っても聞かねえのがクリューだ。俺としてもハンターの仲間が増えるのはありがたいし、こいつが本当にそれを成し遂げたら面白いじゃないか」

「…………ねえクリュー」

「なんだ」


 オルヴァリオの返事を聞いて、またクリューへと向き直る。


「買ってどうするのよ」

「氷を解かす」

「それは国の研究機関でもやってるわよ」

「違う。解けない氷の研究じゃない。俺は彼女の為に、解かしたいだけだ」

「……あんたの知り合いなの?」

「そんな訳ないだろう。一目惚れだ」

「……!」


 一切の恥じらいも無く、言い放つクリューに。逆にリディが赤くなってしまった。


「…………呆れた。ラビア人て変人ばっかなの?」

「だから俺をクリューと一緒にするなよ」


 とんでもない奴に声を掛けてしまったと、リディは思った。

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