第3話 トレジャーハンター

 次の日。クリューは早速街を出る為に乗り合い馬車の停留所へ向かった。


「おいクリュー。なんだその荷物」


 背後から呼び止められる。振り向くとオルヴァリオが大きなリュックサックを背負って立っていた。


「……お前こそなんだその荷物は」

「ああ。俺はこれから街を出る。念願の『トレジャーハンター』になるんだよ」

「…………トレジャーハンター?」


 同じようにリュックを背負ったクリューとオルヴァリオは、同じ馬車へと乗り込んだ。


「俺は昔から憧れてたんだよ。危険な場所へ行って、お宝を取ってくるハンターに。お前は? クリュー」


 オルヴァリオは紫の眼をきらきらさせて語る。そう言えばそんなことを言っていたなと、クリューも頷く。


「俺は。……俺も旅だ。どうにかして100億を稼ぐ、な。まずは都へ出てみようと思ってる」

「いや、都じゃ宮仕えでもそんなに稼げねえぞ」

「……だが情報が集まる場所だろう」

「ふむ。クリューよ」

「?」


 オルヴァリオは、クリューの決意は固いのだと知っている。友である自分に何も言わずに街を出ようとしていたのだ。それは自分もだが。


「俺はこれから、都ではなく国外へ出るつもりなんだ」

「へえ、そうなのか。どこだ?」

「ルクシルアだ」

「!」


 オルヴァリオの言い放ったその地名は、クリューの瞳の色を変えた。


「『氷漬けの美女』が居る場所じゃないか」

「そうさ」


 それを見て、オルヴァリオはにやりと笑う。


「ひと目、見ていかないか? お前の旅の始まりに。お前の帰って来るべき所に」

「…………良いな。良いぞ。オルヴァ。お前は今良いことを言った」

「そうだろう。さらに、100億稼ぐ方法も紹介してやる」

「なんだと」


 オルヴァリオにとって、クリューは唯一信頼できる友と言っても良い。変人ではあるが、頭が悪い訳ではない。


「トレジャーハンターだよ。一攫千金狙うならこれだ」

「……!」


 今の時代。『世界地図』は完成していない。街で買える地図には、国内の様子しか描かれていない。都で買える世界の地図も、半分が真っ白になっていたりする。

 世界の外へと踏み出し。古代文明の遺跡を調査し、お宝を取ってくる。ハンターとは、そんなロマンのある仕事だと、オルヴァリオは信じている。


「『氷漬けの美女』が発見された、バルセス地方にも行くつもりだ。……どうだクリュー。その気になったか?」


 古代文明という概念は、昔からあった。今より遥かに優れた技術を有していた、現人類の祖先であると言われている。近年発展の目覚ましいこのラビアの技術も、国内の優秀なハンターが危険な遺跡から持ち帰った情報を頼りにしている部分があるとか。

 その栄光の文明が失われた理由は、やはり寒波であるとか、戦争であるとか、地殻変動であるなどの説がある。その謎を解き明かすことも、ハンターには求められ、国に雇われたりもするのだ。

 勿論そんなハンターはごく一部なのだが、オルヴァリオは憧れている。世界の最先端に居るのが、トレジャーハンターなのだと。


「…………良いな。良いだろう。それしか無い。バルセスにはずっと行きたかったんだ。『彼女』の故郷だろう」


 その、時代の求める熱が。オルヴァリオを通して、クリューにも伝わった。


「決まりだな。まず目的地はルクシルアだ」

「ああ。まさかお前と旅することになるとはな」

「腐れ縁さ。付き合えよ」

「仕方がない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る