旅の難易度は、距離で測れる物では無い2
「おいおい……まさか進路を変えて迄助けを求めた相手が、その美女か? どう見たって俺らに勝てる様なナリじゃねぇだろ。いくら他に人っ子一人いねぇからって、巻き込まれた美女が可哀想だろ」
そう言う山賊達の様子は、言ってる事とは正反対であり、今にも殴りかかりそうな雰囲気である。
更に言えば、明らかに視線は華耀の身体を舐め回している。さながら、頼まれた仕事をこなした後の自分達への御褒美、等と考えているのだろう。
そんな山賊の視線を無視し、華耀は瞬時に試算を始める。
今現在の華耀の歩幅は女性が故におよそ八十五センチ。話しかけてきた男を大将と仮定すると、男との距離は十メートル迄縮んでいる為、十歩強で対象の懐に潜り込む形となる。
相手が華耀の容姿を根拠に油断をしている、これは大きなアドバンテージだ。上手く利用すれば、一瞬でカタをつけられる可能性もある。
一つ深呼吸し、直後無詠唱で風属性の魔法を足元に使用、駆け出す速度を瞬時にトップスピード迄乗せる。障害物を避けつつ、十メートルの距離を二秒で切り抜け、後ろへと回り込みながら相手の喉元を氷魔法で生成した刃で一息に搔き切った。
数瞬後、突然仲間の首から血が吹き出したのを目撃した山賊は、華耀の狙い通り、途端に浮き足立ち始める。
「今何がっ、あっ?」
「何だ、おい、急にどうしたんだよ、っえ?」
混乱に乗じて、立て続けに二人の眉間へと氷礫を投げ、気絶させる。だが、最初の一人の血飛沫を目撃した後、続けて仲間の声が途切れれば、深く考えずに残りの二人も殺されたと考えるだろう。
華耀の予想通り、残り二人の山賊は一目散に元来た道を戻っていった。なるべく魔法が届く範囲ぎりぎり迄、遁走する彼らに攻撃を叩きつけたが、致命傷には至らなかった。
後はその先に居る、彼らが縄張りを犯した野生動物がどうにかしてくれる事を祈りつつ、辺りの気配を探る。他に誰も居ない事を確認し、華耀はようやく肩の力を抜いた。
一瞬で叩きのめした様に見えて、実は華耀は限界に近かった。今のが、初めて経験する本物の命のやり取りだったのだ。時間が経ち、初めて人を殺した実感が忍び寄り、既に手は震え始めている。
こうなるであろうと想像した上で華耀はこの戦略を練ったが、本音を言えば最後の二人を確実に仕留める事が出来ないのは歯痒かった。華耀を警戒している分、次は厄介な相手になる。更に他に仲間が居た場合、その者達と合流されれば、勝率はかなり下がる。
無理を押してでもなるべく早くトレヴィルに辿り着かねばならない。
気絶した二人を、待機していたヨハネスの元へと引きずり、華耀は自身の荷袋の中から紐を取り出し、手早く山賊を縛りあげた。そうして目が覚めても逃げられぬ様にしてから、改めて唖然としているアダルベルト家の面々を振り返る。
「すみません、本当は尋問の為にはリーダーらしき人物を生かしておきたかったんですが、相手の人数が多かったものですから、安全に倒す為には大きな動揺を誘うのが確実かと思いまして」
「い、いえ、そこは安全を最優先してもらうのが第一ですから謝られる様な事ではありません。むしろ、僕達の為に生かして捕らえていただいて、本当に申し訳無いです」
「私が勝手にした事ですから。ただ、山賊を使っている辺り、依頼人は自分達迄足が付かない様にしているでしょうから、余り有力な証言は得られないかもしれませんが。後の問題は、森の向こうにあると言う、荷馬車でしょうか?
……少し気になっているのですが、貴方がたが雇ったと言う護衛は、少人数だったのでしょうか。それとも、不意打ちを食らったのでしょうか。全滅する護衛と言うのは少し考えにくい気がするのですが」
「そうですね……僕達もそこは気になっていました。護衛の方々には、奇襲に気づいた時点で防御力上昇の術式の付与を行ったのですが、その割には随分あっさりと打ち負けてしまいまして。ただ、死体を調べようにも彼らから逃げる事が先決でしたので、無理だったのです。
今思うに護衛は最初から山賊の仲間で、早々にやられた振りをして、僕達が殺されるか、こちらに逃げて来ている間に、トレヴィル迄積荷を運ぶ算段だったんじゃないでしょうか。
依頼自体は僕らの殺害だとしても、それとは別に更に儲けようと考えるでしょうし。そうでなければ、護衛含めて十人だったこちらに対して、五人の山賊と言うのは、無謀過ぎる気がします」
ヨハネスの発言に、華耀は頷く。
「それは私も気になっていました。最初に殺した頭と思しき人物、確かにあの集団の中ではリーダー的存在だったのかもしれませんが、それは今の襲撃の面子の中での話である気がします。
恐らく、彼らを纏めあげている人物は別に居るのでしょう。最後の二人は、完全に恐怖に囚われた逃走と言うよりは、秩序を守った逃げ方に感じられました。全滅するより、情報を持ち帰る事を選択したのではないでしょうか。
そして、それを考えるだけの余裕がまだあった。戦闘能力が低めでも、思考力がある分厄介な相手かもしれませんね」
華耀とヨハネスの話から、一行はすぐさまトレヴィルに向けて出発する事にした。もしも予想が当たっており、彼らが金品目当てで売り払う算段であれば、こちらのルートを急げば先回りして、彼らを捕らえる事も可能かもしれない。
しかし、改めて考えると移動手段の選択肢が無い。アダルベルト家の面々は徒歩で森に逃げ込んだ為、馬は持っていない。距離的には圧倒的に早いこの道を使っても、徒歩となると急いで進まねば馬車相手では先回りが難しくなる。
華耀が乗っていた馬で、誰か一人だけが先にトレヴィルに向かい、事情を説明して山賊を捕らえる手伝いをして貰う手も考えたが、この道を馬に乗って向かうのは命の危険が伴う為諦めた。
更に言えばこの可能性は山賊も考える筈で、向こうの選択肢は二つに一つ。
一。荷馬車の荷を諦めて撤退する、あるいは手に持てる範囲のみを回収し、森の入口付近で野営をし、後日ほとぼりが冷めてからどこかへ換金しに行く。
二。荷馬車を予定通りトレヴィルへと進め、積荷を換金する。その場合は、華耀達よりも先にトレヴィルへと辿り着くか、或いはもう一度道中で仕留めねばならない。
この辺りとなる。この時期の街道はトレヴィルへと向かう商人や学院入学生で一杯で、荷馬車の進行方向を王都側へと反転する事は目立ち易い。また、王都からの積荷を王都に持ちかえるのは不自然で、城門で追及を受ける可能性がある。そのリスクを考えると王都に戻るとは考えにくい。結果、選択肢は先の二つに絞られる筈だ。
しかし、選択肢一は可能性は低いだろうと、皆の意見は一致した。依頼を失敗した場合、発覚を恐れる依頼人に消されるので、何があっても必ず再び命を狙いに来ると。最も、依頼が成功した所で報告に行った途端消されるのが関の山だと思うが、そこは深く考えていなかったのだろうか。
疲労困ぱい状態のヨハネスの弟リュリュと、森を抜ける際に軽く足を捻っていたアメリーを馬に乗せ、転落を防止する為に手網は華耀が握る。ヨハネスが痛み止めと治癒促進の祝福を掛けるのを確認した後、一行はトレヴィルに向けて歩き始めた。
捕らえた山賊二人は、トレヴィルでの調査の役に立つ可能性が捨てきれず、ヨハネスと彼の父ラリが背負う事に。道中、どうしても体力が持たなければ捨てるなり息の根を止めるなり考えれば良い。
§-§-§
死に物狂いで森を抜けてきた為か、歩を進めるだけで精一杯の四人の様子に、華耀はあえて声は掛けずに無言で前を行く。
しばらく進んだ頃、少し落ち着いたのか、ヨハネスが思い出した様に「あの、改めて御礼をしたいのですが、その前に何と御呼びすれば良いでしょうか」と声を掛けてきた事で、華耀は自分が名乗り忘れていた事に気付いた。それを皮切りに、足を進めながらも話し始める。
「大変失礼致しました。私はエレノア・ブロッサムと申します。エレノアと御呼び下さい」
エレノアは耀、ブロッサムが華。実の所、華耀の名を二つに分け、それぞれ名と姓に当て嵌めただけなのであるが、そもそも華耀の名もエレノアの名も一般に知れ渡っておらず、当然の事、二つの名を結び付けて考える者など居ない。
“エレノア・ブロッサム”と言う名は、母が付けてくれたものであり、女の姿の時は城でもそう名乗っていた。今回も女の華耀は、母の遠縁のエレノアとして学院に入学する予定である。ヨハネスは先輩だと言う事から、特に偽名は使わず素直に名乗る事にし、先に名乗ったヨハネスに合わせて姓も名乗る事にした。万が一ヨハネスが学院で暴露したとしても、エレノアの姓は特に貴族家名一覧には載ってないのでさして困りもしない。
「貴方に相応しい美しい御名前です。私の事はどうぞお好きに御呼びください」
「ありがとうございます、ではヨハネスと」
ようやく訪れた話を聞くチャンスを逃さぬ様にと思う一心で、思わずヨハネス”様”
「込み入った事情に立ち入る様で大変心苦しいのですが、差し支えなければどうして本家が貴方がたを狙うのか、御聞きしてもよろしいでしょうか? この様な行為、表沙汰になれば、アダルベルト家そのものが御取り潰しになる可能性もあると思うのですが」
華耀の質問に対し、真っ先に口を開いたのはアメリーだった。
「その件は私から説明した方が良さそうです。その前に、エレノア様、先程は誠にありがとうございました。……もう生きて家族と言葉を交わす事は出来ぬものと思っておりましたが、貴方様の御陰で助かりました。
無事にトレヴィルに着きましたら、必要な物があればなんなりと御申し付け下さいませ。アダルベルト家の名にかけて、可能な限り迅速に揃えさせて頂きます。
ここに居る夫ラリも、実は細工物が得意なのです。エレノア様に似合う装飾品を御作りする事も可能ですから、是非どうぞ」
学費以外は全て自費で賄うのが修行の一環として師匠から出された条件だった華耀は、願っても無い話に思わず頷いた。アメリーは軽く微笑みながら、話を続ける。
「先程の話に戻りますが、事の発端は先代、私の祖父の代の話に遡ります。ここから先は全て父に聞いた事です。真偽の程は分かりかねますが、今の状況を考えるに、全て事実なのでは、と思います。
……祖父が当代であった時、次期当主を決める為に私の父と、父の兄、つまり私の叔父ですが、この二人に様々な課題を言い渡していたそうです。父の結果は良くも悪くも手堅く、叔父の結果は革新的だったと聞いています。
様々な課題をこなし、いよいよ次期当主の指名がされると言う頃には、新しい事も積極的に取り入れていた祖父の性格からして、次の当主には叔父が選ばれるものと、叔父の派閥の誰もが確信していた様でした。
しかし、実際に選ばれたのは父でした」
アメリーは一旦話をやめ、遠くを見つめる様子を見せた。ここまでの話が順調に行けば、今頃はアメリー一家が本家であった筈だ。何があったのか。華耀は息を詰め、アメリーが話を再開するのを、静かに見守った。
「叔父は怒り心頭だったと、父から聞いています。何故なのかと、その場で祖父に詰め寄ったそうです。
祖父は、目的の為には手段を選ばない、その性格が故に当主にする事は出来ない、と叔父に言いました。ですが叔父は、商売繁盛の為に手段を選ばないのは当然だと言い放ち、その場を後にしました。
そして……、そしてその数週間後に祖父は、亡くなりました」
衝撃に、華耀は詰めていた息を思わず吐き出した。この話の意味する所はつまり、当主の座を息子のヴィクトール・アダルベルトに譲るとして最近引退表明したアダルベルト家現当主のザシャ・アダルベルトが、先代当主を何らかの方法を用いて殺害し、当主の位を弟から奪った簒奪者の可能性が高いと言う事だ。
「父は、叔父に次期当主の座を譲るつもりだったと言っていました。ところがその直後、祖父が亡くなった。その時父は、自分が間違っていたと悟ったそうです。
当主とは、商才に長け、利益を生み出す者では無く、一族を守る者なのだと。手段を選ばずに商売をすれば、恨みを買い、それがいずれはアダルベルト家に対する災いとなる。その種を自ら植えている叔父は、当主になってはいけないと感じたそうです。
どうにか祖父が殺された証拠を見つけようとした父ですが、祖父が生前に皆に示した、次期当主として父の名を記した告知書は見つからず、代わりに祖父の筆跡と見分けが付かぬ、叔父の名を記した告知書が出てきたそうです。
これはどうした事かと父は叔父やその側近に詰め寄ったそうですが、皆口を揃えて、指名式で祖父の口から直々に叔父の名が挙がったでは無いか、と。元々、大半の人物は課題の結果しか知らず、父や叔父の
そんな中、叔父の性格や、指名式での事の顛末を知っている人物は強硬に反対していましたが、彼らは日を追う毎にアダルベルト家から姿を消しました。それを感じ取った人々は、薄々真実に気付きながらも次第に口を閉ざす様になった、と。
父の選択肢はいくつもありませんでした。
アダルベルト家を捨て、一商人として旅立つか、叔父の下に付くか、叔父と対立しつつもアダルベルト家で商人を続けるか。
地位や名誉には興味が無い父ですが、祖父が大きくし、また、大切に守ってきたアダルベルト家だからこそ、祖父の為にもこのまま捨てる事が出来ないと、叔父と対立しつつも残る選択をしました。
祖父を害した証拠や、消えた人物の消息も、残った方が探しやすいと踏んだのでしょう。
しかし、当主となった叔父は、父が傍に居るのを良しとしませんでした。証拠探しや、叔父と父の
叔父は、アダルベルト家を拡大する、と言う名目で父に分家筋の当主の座と、新たな屋敷を与え、生家から追い出しました。
こうして、表向きは本家と分家がそれぞれ自分達で利益を上げ、どちらかが苦しい時にはもう一方が支援する、と言う資産の分散を提唱し、叔父の当主としての地位は確実な物になり、今に至ります」
一息付き、「ですが」とアメリーは続ける。
「数ヶ月前の叔父の引退表明以降、今度は私達分家を亡き者にしようとする動きが目立ち始めました。
叔父は、息子が一人しか居ないので彼に課題を申し付ける事はありませんでした。学校の成績は優秀でしたし、幼い頃から父である叔父の仕事ぶりを見ているのですから、何の問題も無いと思っていたのでしょう。
ところが当主襲名の為に、ある程度の実績を積ませようと軽い課題を与えた所、この結果が酷く、大赤字を出したのだとか。
これに対して叔父は、他にも様々な課題を与え、向き不向きを見極めようとした様ですが、全て失敗に終わった、と。
つまるところ、私の従兄弟は、優秀ではありますが、それは商売には一切向かない類の物だったと言う事です。
その後の叔父や従兄弟のやり取りは知りませんが、一度、従兄弟から、旦那と別れて俺と結婚すれば本家の人間になれる、等と言う浅ましい誘いを受けました。勿論直ぐに断りましたが、それから私達一家は命を狙われ始めてますから、まあ恐らくはそういう事なのでしょう」
アメリーの口調は、叔父親子のやり方に対する鬱憤が色濃く現れる、とても投げやりな物だった。最も、それも当然の事だと華耀は感じた。
話を聞き終わった華耀は、しばらく考えに耽る様に黙していたがやがて静かに口を開いた。
「まさか陛下の御膝元である王都でその様な事がまかり通っているとは……。
……ですが、何故それを私に話したのですか? 御聞きしたのは私ですが、出会ったばかりの赤の他人に話すのは、いささか不用心かと思いますが。
もしも私の口が軽く、そして仮に城への伝手があれば、ひと月も経たずにアダルベルト家は御取り潰しになるかもしれません」
この華耀の疑問に対し、アメリーは薄く微笑みながら答えた。
「商売は人相手の事ですから、何よりも人を見る目を養わねばなりません。
私は、ある程度名が通る位には成功しておりますから、人を見る目はあるかと思います。貴方様ならばと思った為に、話しました。他の誰でもと言う訳ではありません。
それに、本音を言えば御取り潰しになるならば、それも良いと思っております。
父には申し訳ありませんが、私には、一族を守ろう等と言う気持ちはありません。この手の届く範囲、自分の命に代えてでも守りたいと思うのはここに居る家族だけなのです。
ですから、本家に狙われるのであれば、本家を排してでも家族を優先致します。
もしも貴方様に伝手があるのであれば、アダルベルト家の所業を広めて頂いた方がありがたいのです。
山賊による襲撃も、祖父殺しも、……そして父が消えた事も、全て証拠が無い以上、もはや風聞に頼るしか道は無いのですから」
そう話すアメリーは、全てを諦めた様な表情で微笑んでいる。既に彼女にとっては、アダルベルト家は切り捨てるべき邪魔な存在なのだ。だが、ただ彼女がアダルベルト家を出奔すれば済む話では無い事を察している、そんな表情。
これまでの話を統合すれば、本家がアメリーの名声を疎んでいるのは確実だろう。家を出て商売をした所で、余計に疎まれるだけである。アダルベルト家の分家、と言う称号が外れれば自分達の脅威、言わば外敵にしかなりえない。
だから婚姻を迫り、本家の人間となって代わりに商売をすれ、と暗に迫り、それを断られた事で、後顧の憂いを絶つ為に命を狙う。
確かに、本家以外に有り得ない様な構図を描いている。だからこそ、証拠が何も無い事が彼女にとっては歯痒くてならないのであろう。
華耀はふと、ヨハネスに背負われている山賊を見やる。
細かい事情こそ知らないにしても、依頼人も知らずに動いているのだろうか。そもそも、アメリー達が雇った護衛が山賊の仲間だと仮定をすると、一体どこで護衛を頼んだのか。
やはり、証拠を探すのであれば手掛かりはこの辺りだろう。
山賊や護衛に本家の息がかかっているとして、まさか本家が直接依頼をする等と愚かな事はしないであろう。そうであればとっくに事は明るみに出ている筈だ。確実に間に誰かが居る。
アダルベルト家が使える相手となると、下請けの商家や個人商か、或いは、話通りの性格であれば、貴族との癒着や賄賂の応酬があってもおかしくは無い。現当主の筋が当主であり続けなければ蜜を吸えないとなれば、自家が抱えている用心棒なり傭兵なりを貸出す程度はありえるかもしれない。本家よりも、その辺りを探った方がかえって早いだろうか。
アメリーの言葉に黙り込んだ華耀の様子に不安になったのか、ヨハネスが問う。
「エレノア? 大丈夫ですか。母はああ言っていますが、見ず知らずの貴方が考え込む必要は無いのですよ」
「御気遣いありがとうございます、ヨハネス。ですが、ここまで聞いてしまってから知らぬ存ぜぬは私の主義に反します。
しかし……そうですね。アダルベルト家の所業を広めるのは構いませんが、それでは分家の貴方がたも少なからず悪評に晒される事になるでしょう。
ですから、もう少し穏便に済ませる事が出来ないかと、考えていたのです。
一つ御聞きしたいのですが、今回の行程の為の護衛は、どこで雇ったのでしょうか。やはり、あっさりとやられたと言う彼らが仲間の可能性が捨てきれません。だとすると彼らの来歴は大きな手掛かりになると思います」
「私も丁度考えていた所です。普段はアダルベルト家に常駐している護衛に頼むのですが、ここ最近の商売は、その護衛達が山賊に遭遇した時に逃走したり、居眠りを決め込んで気付かぬ振りをしたり、本家と通じている様でした。ですから今回は冒険者ギルドに頼んだのですが……」
「まさか王都の冒険者ギルドに口出しが出来る人物が仲間に……? アメリー様、王都のどこのギルドで頼みましたか? 詳しく御話を聞かせて下さい」
「は、はい。分家や本家近くのギルドでは人目に付くかと思い、なるべく遠いギルドでお願い致しました。王宮近く、東区にあるギルドで頼んだ筈です。そうよね、貴方?」
アメリーの問いに、ラリが頷く。
「つまり、実際に依頼したのはラリさんでしょうか? ちなみに依頼する事や、する場所等をどこかで話したりしましたか?」
「今回は頼もう、と言う話は家族でしましたが、家にも本家の内通者がいるのでは無いかと思い、詳しい場所は何も決めず、夫に一任しました。
夫も頼んだ場所の事は口にしなかったので、私も待合せ場所もあえて聞かず、当日夫に先導してもらいました」
「となると、依頼をする時点でラリさんは見張られており、ラリさんが依頼をし終わったあと、ラリさんの代理人の振りをして護衛に当たる冒険者を指定したか、或いは依頼中に集合場所の指定をギルドで盗み聞きされ、先回りした別の人物らが成り代わったか、でしょうか。
トレヴィルに着いたら門兵に荷馬車と山賊の特徴を伝え、見掛けたら連絡してもらう様手配する事、それから依頼を受けた冒険者と来た冒険者が一致しているのか、この山賊は彼らの仲間では無いのか、ギルドで身元の照会をしてもらった方が良さそうですね」
華耀の案に反対する者は居らず、一行は途中途中に軽い休憩や世間話、足が良くなってきたアメリーとヨハネスが乗馬を交代したり等、寝ずに踏破する為とは言え、無理をしない範囲で順調に残りの距離を消化していった。
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