第4話 1
「ーーやくん、茅葉くん」
肩を揺すぶられ意識が微かに目覚め、視界が開ける。
日差しが目元にさし、自身の意思でないものが手首を目元にまで運び影を作る。
体が言う事を聞かない。
ここは…駅のホームだろうか…
声が音に出来ない。
「もうすぐ来るわよ?」
雪菜がそう笑顔で言うと、くるっと回り白いワンピースを靡かせながら白線の目の前にまで行く。
「ああ、今行くよ」
声を出そうともしていないのにも関わらず自分の声がする。
視界が上がり後ろを振り向く。
そこには、桜の様な綺麗な桃色の髪に整った白い肌の顔、共に暮らすことになったアマタだ。
いや…どこかが違うーー何かが違う、そんな気がする。
「ほら、行くぞ■■■」
ノイズ音のような音が、自分のものではない自分の声を一部かき消す。
「はい」
その少女は無表情でそう一言返すと、自分の後ろに付き、白線の後ろに立つ雪菜の元に近づく。
それに続くように、辺りの人もちらほらと白線の前に立ち電車を待つ。
電車レーンの少し奥のカーブからゴトンという音と共に、電車の正面がのぞく。
「■■■は電車乗るのは初めてだよね?」
「…」
自分と同じ声が再びノイズを含め、自身と雪菜一歩後ろのアマタの様な少女に声をかける。がそれに対し少女は何一つ声を発しずに足元を眺めている。
電車がすぐ目の前にまで近づく。
とんーー
音のなる方に視界が移る。
そこでは両手で雪菜を線路に突き出す少女の姿があった。
一瞬、自分の中の時の流れが遅くなる。自身から雪菜へ向け手が伸ばされる。が、届かない。
再び時は早くなったかと思う様に、流れる。
グシャ!と音を立てて、命が消える。
血飛沫を浴びた駅の中の誰かが声を上げるのを合図に、自分を含めた駅中の人々から、悲鳴が鳴り、ざわめく声がし、嘔吐の音が行き交う。
その中ただ一人、突き出した本人は声も出さず、眉も動かさず、ただ電車とホームの狭間に覗く、雪菜だった物を見下げていた。
そうか。何故この少女がアマタでないと思ったのかわかった。この少女にはまるで、中身が無い。
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