第3話 1
「雪菜さん、ですか?」
風呂から上がり、茅葉のひとまわり大きいパーカーを身につけた桜色の髪を湿らせた少女、アマタが首を傾げる。
「ええ、私と茅葉くんとは恋び…」
「親友だ親友!」
雪菜の声かき消す声で茅葉が言う。
雪菜は普段は実に落ち着いた性格なのだが、時に異様なまでに興奮状態になってしまう。しかも茅葉に対し好意を持ってくれているためか、行きすぎた発言をしてしまうことがかなりある。
「どちらにせよ、下着の着替えをありがとうございます!親友さん!」
「いいえ、いいのよ?茅葉くんの頼みですから。居候さん!」
アマタが笑顔で、事実とはいえ雪菜を煽りる。それにたいして雪菜も笑顔で煽り返す。
「私はアマタという名前があいります!茅葉がつけてくれたんですよ?」
「私こそ雪菜って言う名前があるわ。アマデウスさんでしたっけ?」
お互いに嫌味を吐きながらも、今にも崩れそうな笑顔を必死に保つ。
「ほ、ほら雪菜、もう遅いしそろそろ帰った方がいいんじゃないか?」
取り敢えず二人を引き離した方がいいと直感が言う。が、雪菜はどこか恐怖を感じさせる笑顔で首を横に振る。
「どうせ家には誰もいないのだし、私はここに泊まっていこうと思うの。勿論いいわよね?」
「別にダメとは言わないけど…」
頭を掻きながら目線を移す。そこには笑顔を崩し、不機嫌そうな顔で雪菜を睨みつけているあまたの姿が目にうつる。
「貴方は危険な香りがします!茅葉と一つ屋根の下なんて許しません!」
「それはこっちの台詞だわ。出会って初日にここまで茅葉君にベッタリして。貴方こそ信用ならない」
アマタと雪菜の間に火花が散るかと思われる程の鋭い視線を向け合う。
正直この場にいるのが怖くてなってきていた。
「ほ、ほら…二人とも落ち着いて…」
「茅葉くんは黙ってて!」「茅葉は黙っててください!」
こちらには目も向けられず、二人の怒鳴り声にも似た声と共に手のひらを向けられる。
そして始まった口喧嘩はあまりにも酷いものだった。
雪菜が付き合いの長さでマウントを取れば、アマタがその割にはさん付けで呼んでいると返し、自分は呼び捨てで呼んでいるとマウントを取る。
そんな感じに5分近くが経過した。
流石に聞くに辛くなってきたころに、そっとたちがり自分の寝室に入る。扉を閉めてなおも二人の口喧嘩が聞こえたが、あえて聞こえないふりをする。
取り敢えず、雪奈が泊まっていくということは、部屋のベットと布団がさらに必要になるのだが…
「確かクローゼットの中に一セットあるし、俺がソファーで寝ればいいか」
ベットの隣に引き布団を引き、その上に毛布をかける。
しかしそうなるとアマタと雪菜が同じ部屋で寝る事を意味するわけだが…流石に寝れば大人しくなるだろう。
「ほら〜二人とも。そろそろ…」
扉を閉めたと同時に、強い衝撃が正面から襲い押し倒される。
「茅葉!今すぐ雪菜さんを追い出してください!」「茅葉くん!今すぐアマタちゃんを追い出して!」
後頭部に手を当てながら起きあがろうとすると、押し合いながら未だだんだんと近づいてくる二人の顔が間近の所まで近づいてくる。
「どっちを選ぶの茅葉くん!」「どっちを選ぶんですか、茅葉!」
「っていうか…」
両者の肩を掴み、興奮状態の二人を引き剥がしつつ少し力を入れ、満面の笑みを向ける。
「近所迷惑だから、静かにしよ?」
その笑顔に二人は震えながら、一言も発しず懸命に首を縦に振る。
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