第2第 4
包丁でまな板が叩かれるトントンという音。食材が油を飛ばしながら焼ける音。そんな音たちが
香ばしい匂いが家中に広がり、居間の方から鼻を鳴らす音が聞こえる。
今夜の夕食はチャーハンだ。アマタの事を考えるともう少しオシャレな料理を…と思ったが、冷蔵庫の扉を開いた瞬間、そんな理想は吹き飛んでいた。
一週間に1、2回ほどしか料理はしないため、冷蔵庫はほとんど空に近い状態がほとんどだ。むしろ一品ぶんのざいりょうがあったこと自体奇跡に近しい。
ーーなんでこんなデカい冷蔵庫を買ったのだろうか…
しかし、記憶を取り戻すのが遅れる様ならいつまでも贅沢をさせてやる事はできないし…ある意味ではこれくらいの方が良いのかもしれない。
そんな事を考えながらも、茶葉なども入る上戸棚から底の深い真っ白な皿を一枚取る。
盛り付けでポロポロと何粒か米つぶが溢れたが、チャーハンに見をやるとそれなりの出来だと思う。
アルミ製のスプーンを刺し、お腹を鳴らすアマタの目の前におく。
「はい、お待ちどう様。我ながらそれなりの出来だと思うから食べてみて」
「は、はい!ありがとうございます。では早速…」
そう言いアマタは目を輝かせ、スプーンに手を伸ばす。そのスプーンでチャーハンを一口分掬い上げ…口に入れる。
「んーーーっ!とっても美味しいです!こんなご馳走、ありがとうございます!」
頬に手を当てがら一口、また一口と、口に運んでいき、だんだんと皿の底が覗き出す。
そんなアマタを見ながら少し安心感と喜びを感じていた。
今まで自分の料理を食べてもらったことが一度もなく、自身で食べても正直自信がなかった。それをこんなにも美味しいと言って食べてくれているからだろうか。
自分の作った料理を食べられるというのはこれほどまでに嬉しい事なのか。と、何処か不思議に思う。
「茅葉も一口どうですか?」
そんな言葉とともに、湯気を上げるチャーハンがすくわれたスプーンを向けられる。
「とても美味しいですよ?茅葉の料理は最高ですね!」
アマタのそんな満点の笑みに、ふと気づかせられる。アマタの笑顔を見るのが案外、好きにになったのかもしれない。
向けられるスプーンへ口を持っていく。そのまま口に入れたチャーハンは、自分で作ったものとは思えないほどに美味しさを感じさせた。
しかしーー自然な流れで美少女からあ〜んをしてもらったわけだが、先程までアマタはこのスプーンを使用し、口の中に入れていた。そしてそれを今、俺は口の中に入れた。それがあらわすのは…
「間接キス…!」
「かんせつきす?」
記憶喪失であるアマタは間接キスというワードに首を傾げる。
「えっと…物を通しての…口付け?みたいな…」
どこまでがわかるかは謎だがなんとか説明する。そういったことの説明って言っていて気恥ずかしくなってくる。
「くち付け…ですか…?」
あまたも、『口付け』というセリフに引っかかったのか、どこか顔を赤くする。
アマタのしてきた事とはいい、自分の不注意で起こってしまった事でもある。流石に謝らなければ…
そう思い、アマタに向け声を出す…がそれよりも先に部屋に響いたのはアマタの、「ごめんなさい!」という精一杯の謝罪の言葉だった。
「私の不注意で間接とはいえそ、その…初めてをとってしまい…」
そんな今にもかき消されそうな声に、ドキッと鼓動がはやめられる。しかし、『初めて』とは…どこか悪意を感じる。一応初めてではないのだが…まあいいか。
「い、いや俺は大丈夫だけど…こっちこそごめん。今新しいスプーン持ってくるから」
そう言い、立ちあがりキッチンに向かう。
「でも、私は茅葉が初めてなら…」
そう言い、少し口の両端を持ち上げるアマタの姿が見え、再び鼓動を早められる。
初対面の男にこれほど友好的でいいのかと思いながらも、この対応が過去にもこれからにも、自分にだけ向けられる事を小さく祈る。
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