第2話  2

 「わー意外と広いですね」

 短い廊下こえ、居間に入るところで後ろから驚きにもにも似たつぶやき声が聞こえる。

 「でしょ。外見からはあんまり予想できないけどね」

 ピンク髪の少女がハとしたように顔を赤く染めると、両手の袖で口元を隠し縮まるように小さく頭を下げる。

 「いいよいいよ。最初俺も外見にしては広いって驚いたし。」

 しかし、何故これ程までに外見からは小さく見えるのだろうと、我が家のアパートの外見を想像し、不思議に思う。

 そんな事よりと思い、居間に繋がるキッチンに向かい、上戸棚の取っ手に手をかける。

 「今お茶淹れるからソファーにでも座ってて」

 今度こそと、背後の少女にそう指示し棚の中に並べられた茶葉の入るパッケージに目を向ける。

 昔、教室で何気なく休み時間を過ごしていた時。教室の中でもムードメーカーの様な運動系の男子が、らしくもなくテンションを下げ、他の男子との会話が偶然耳に入った。

 「昨日、うちに彼女がきてさ…緊張しながら飲み物出さないとって思ってコーヒー出したんだよ。そしたら『私コーヒーの匂いもダメなんだけど』って。

 なんか悪いことしたなって思って烏龍茶出したんだよ。そしたら『烏龍茶もダメなんだけど』って言われてさ。

 なにが飲みたいか聞いたら『私たち付き合ってんだからそんぐらいわかってよ!』ってキレられて。そのまま家飛び出してって、それっきりメールも返ってこなくて…。わかる訳ないだろ…!まだ付き合って一週間も立ってないんだぞッ」

 そんな彼の今にも消えてしまいそうな声は今でも脳内に蘇る。

 その時は面白程度にしか思っていなかった。だがこの家に越して来た時に、ふとその時の彼の背中を思い出し、ただでさえ出会いの無い者として、とある程度の情報と共にそれなりに値のする茶葉などを揃えていた。

 あの時の彼の様にはならない!

 そう心の中で強く唱え、自身に向けガッツポーズを取る。と、背後からの「あの…」という声が茅葉の鼓動を早める。 

 「あ、あの…そふぁーって…何ですか?」

 そんな台詞が、一瞬にして茅葉の思考をゼロにした。

 彼女が記憶喪失ではあるが、しっかり言葉も話せていたし『お姫様』というワードが通用したので、そういったことは完全に意識範囲外だった。 

 記憶を無くしている方もだが、接する方も大変そうだ、と額に手を当て一息つく。

 そんな様子をおどおどと様子を伺ってくる少女の姿が見え、どこか心癒される自分がいて、少し笑みが漏れた。

 大変そうだが嫌にはなりそうにないな。

 

 

 

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