第四話 探索者は、とってもステキなお仕事

「それではよろしいでしょうか。はいっ、まずはこちら。どん。『どうして私、ハーフエルフのアイシアが一流の探索者たんさくしゃを目指すに至ったか』——」


 掲げたフリップの、最初の文章を読みあげるアイシア。それを、おとなしく体育座りで聞いているシクヨロとマルタンは、ぱらぱらぱらと力のない拍手を送った。


「探索者——。それは、この剣と魔法のファンタジーオンラインRPG『ドラゴンファンタジスタ2』において、もっとも花形の職種キャリア数多あまた魔物達モンスターおそれる勇者ヒーロー。小学生が将来なりたい職業ランキング第一位。すべてのキャラクターのあこがれのまと。それはまさに、だれもが目指すべき究極の地位ステータス


 アイシアはニュースバラエティーの女子アナのように、フリップに貼られた目隠し紙をつぎつぎとはがしながら解説していく。


「なんなの? これ」


「まあ、ここはしばらくだまって聞いてみようぜ」


「探索者には、家柄の高さも見た目ルックスの良さもいりません。頼れるのは、おのれ才覚さいかくと積み重ねた技能スキル、そしてひとりのつるぎのみ。広大にして緻密ちみつ、危険なトラップと莫大な財宝トレジャーが眠る迷宮ダンジョンが、探索者の訪れを今か今かと待っているのです!」


「なんか、だんだんヒートアップしてきたね」


「探索者として成功できればぁ……? そう、お金がもうかる! 美味おいしいものが食べられる! 駅近えきちかのいいとこに住める! 服装ファッションめられる! まわりの人たちからの見る目が変わる! 居酒屋のサービスが良くなる! 有名人セレブと知り合える! 合コンでモテる! SNSのフォロワーが増える! あ、あと美味おいしいものが食べら」


「あー、もうだいたいわかったから」


 フリップをばら撒きながら長台詞ゼリフをしゃべりつづけて、すこし息が切れているアイシアを、シクヨロが制した。


「まあ、あんたの言ってることはまちがってない。たしかに、探索者っていう商売にはそれだけの魅力はあるからな」


「わかっていただけましたか」


「でもよぉ、問題はどうすれば一流の探索者になれるのか、だろ」


「そこなんですよ!」


 そう言いながら、アイシアはまた新たなフリップをめくる。彼女の足元には、これまでに投げ捨てられたフリップと目隠し紙の山ができていた。


「こちらをご覧ください。これ、現在の私の探索者としてのステータスなんですけど」


 そのフリップには、アイシアのステータスが、多角形のレーダーチャートになっていた。それぞれの頂点には、ステータスの項目が書かれており、「攻撃力」「防御力」「体力」「持久力」「すばやさ」「性格」「スタイルの良さ」などとある。


「んー。こうやって図にしてみると、わりと優秀ですね、私」


 さっき彼女が話していた、エルフ呼ばわりされるほどの迷宮での悪行には、どうやら完全に目をつぶっているようである。真っ暗闇である。


「ねえ、その『性格』とか『スタイルの良さ』って、いるの?」


「重要です」


 マルタンの問いに、即答するアイシア。さっきは見た目ルックスはどうでもいい的なことを言ってたような気がするが。


「問題は、ここです」


 アイシアが指差したのは、まんべんなく高い値を示している多角形のチャートの中で、ひとつだけ大きくへこんでいる部分だった。そこには「魔法」とある。


「じつは私、魔法関係がちょっと」


「そういえばめずらしいよな。エルフといえば、だいたい魔導師ウィザード治癒師ヒーラーなんだが、あんたは剣士フェンサーだもんな」


「キミは、魔法は使えるの?」


「まあ、それは追い追い……」


 アイシアは、そこをなんとなくぼかした。じつはこれこそが、あとあと重要なカギになってくるのだが。


「それにしてもよぉ、探索者としてほとんど冒険で役に立ってないのに、どうして剣士フェンサー経験値レベルはそんなに高いんだ?」


「それはですね。探索パーティーに入れてもらえないときは、ひとりでずーっと町のまわりの弱いモンスター狩りをしてたんです私、ヒマなんで。それで、気がついたら剣士フェンサーレベルがすごいことに」


「ってか、雑魚ザコモンなんかいくら狩ってもそんなに強くならんだろ。いったいどんくらいそうしてたんだ?」


「かれこれ、三十年ちょっとですかね」


「さ、三十年?」


 シクヨロとマルタンが、同時に驚愕の声を上げる。


「私、こう見えて今年でもう百七十歳なので」


 エルフは、他種族に比べても高寿命であることはよく知られているが、それにしてもそんな年であったことは二人にとって意外だった。このゲームでは、エルフの一年は人間ヒューマンの十年にあたる。つまりアイシアは、エルフの感覚で言うところの三年あまりの間、スライムとかばかり倒しつづけていたわけである。


「もう、さっきのステータスチャートに『気が長い』ってのも入れとけよ」


「で、けっきょくキミは魔法の力をどうしたいのさ?」


「はい! それこそが、今回こちらの探偵さんに依頼したいお仕事の内容なんです」




続く


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