迷宮探偵4946 ~剣と魔法のファンタジーRPGで、なんとしても探索者として成功したい黒髪和風エルフの巨乳剣士(天然)は、この世界にたった一人の『迷宮探偵』に依頼して最難関の迷宮で一発逆転狙います!~
猫とトランジスタ
第一話 この世にたった一人の「迷宮探偵」
雨が降っていた。
この季節としては、あまり例のない大粒の水滴が、草原を、大地を、そしてその少女がまとった
それは、
彼女が背負った
少女は、街はずれのこの場所へ来るまえに、
「うん、ここでまちがいない……よね?」
そうつぶやくと、少女はその家に掲げられた看板を見上げた。そこには、こう書かれていた。
(し・く・よ・ろ。……はあ、ホントにシクヨロって読むんだ)
少女は意を決して、玄関扉に備えつけられている、
コン、コン……
少女はすこし申し訳なさそうに、小さめの音を立てた。しかし、おりからの大雨のせいか、反応はない。おなじように、なんどか鳴らしてみるが、返ってくるのは冷たい静寂のみだ。少女の口からは、ため息の混じった白い息があふれ出す。
「……あれ?」
そのときだった。ドアのそばの窓の内側を、一匹の猫が通りすがったのだ。それは、なんとも
「うわあ、すっごいかわいいネコちゃん!」
しかしその仔猫は、ぷいっと横を向くと、そのまま家の奥へと姿を消した。少女は、ひょっとしたら仔猫がここの主人を呼んできてはくれないかと淡い期待を抱いたが、あいにくそんなことは起こらなかった。
「ようし、もうこうなったら……」
ガンガンガンガン!
とうとうその少女は、半ばヤケになって
ガンガンガンガン!
ガンガンガンガン!
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガ
(やばい、なんかだんだん楽しくなってきた)
少女がお気楽に
「うるさいっ!」
その声に少女がびっくりして、
「うわっとっと! ……あぁんもぉ〜、痛ったぁ〜」
膝をこすりながら、起き上がった彼女のまえにいたのは、ひとりの少年だった。
その男の子は、おそらくは十二、三歳くらいだろうか。端正かつ、高貴といえる
黒いネクタイに、サスペンダー付きのハーフパンツ。頭には、やはり黒い革製とおぼしき軍帽のようなものをかぶり、肩にはきらびやかな
それは、その少年の背丈ほどもあり、杖と呼ぶにはあまりにも長く太く、大きすぎるように思えた。こちらにも大小さまざまな宝飾品がゴテゴテと
「さっきからさぁ、キミ
その少年は杖を向けたまま、少女に声をかけた。無表情のまま、ぶっきらぼうかつ無愛想に。
「あ、あの……。ひょっとして、あなたがシクヨロさんですか?」
少女のその問いかけに、少年はぷいっと横を向いてため息をついた。手にした杖を肩の上に置くと、あきれたように言い捨てた。
「ハッ、冗談じゃないよ。……なんでぼくが」
少年は、そのまま奥の部屋へと消えていった。玄関先に残された少女は、どうしていいかわからず、しばらくそのまま立ちつくしていた。
「えっと……。あのー、すいませんけど」
そのとき、ふたたび奥の扉が勢いよく開いた。
「はいはいはいはい! どぉーもお、こんなドっしゃ降り雨の中、わざわざご
それは、さっきの小柄な美少年とは打って変わって、長身でやせ形の男だった。年はまあ、四十歳まえに見える。無精髭が目立ち、髪もボサボサ。もうすでにお昼近いというのに、いまのいままで
「あ、あなたが……」
「そう、私がこの世界にたった一人の『迷宮探偵』こと、『シクヨロ』ちゃんでぃーっす!」
男は、軽薄そうにポーズを決めてそう言った。
それが、この少女と自称・迷宮探偵シクヨロとの最初の出会いだった。
続く
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