幕間 異世界旅行の道中で

幕間-1 少年A

 目を覚ました桑原さんと別れた後、俺と祐希は一度家に帰って諸々の準備を済ませ、電車に乗っていた。


「電車に乗るの割と久しぶりだな」


 高校は徒歩で登校できる距離だったので、ここ何ヶ月かは乗っていなかった。両親を喪った後、高校入学と同時に今の家に引っ越してきたため、電車の路線図やなんかは欠片も把握していない。


「というわけで、案内よろしく!」


 もとより俺は目的地を聞かされていないので、割と意味のない発言だったりする。

 中身のない会話だが、そうでもしていないと自らの手でシュヴェールトを殺したというショックに耐えきれない気がした。祐希曰く、彼は生物的な意味で人間ではないかもしれないとのことだが、人格を持っていたのだから彼は『人間』には違いないのだ。俺がこの手でひとつの命を、人格をこの世から消し去ったという圧倒的な違和感は、まだ暫く収まりそうになかった。


「言われなくても。にしても、まだこんな時間か」


 祐希が腕時計をチラッと確認して言う。こちらの世界に戻ってきたのが早朝で、牛丼屋で確認した時が午前5時くらいだったのだが、あの後桑原さんが起きるまで待ったり、最後に一度家に帰って必要なものを持ち出してきたりしたのだが、今やっと7時半を回ったところだ。正直、もう1日が終わったような気になっていた。


「ゲートは夜まで開けないし、それまでどうしようかな」


「もう少し家で休んでから出発しても良かったんじゃないか?」


「あ……いや、そうだ、ビルの上に監視カメラあったら…そう、家にいると面倒なことになるかもだから!」


 誰が聞いているか分からない電車内なのでところどころぼかしながらの言葉だ。

 絶対今考えただろ。そもそもそのあたりは《神託者》がどうにかしてくれるんじゃないのか。


「……待ってデタラメだよな?指名手配犯になったりしないよな?」


「まあ……きっと大丈夫だと思うけど。《神託者》の権能も万能じゃないから……」


 祐希は一瞬目を逸らして、

九割五分きゅうわりごぶ大丈夫だよ!」


「あとの五は!?」


「てへぺろ」


「てへぺろじゃねぇ——!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る