第2章18話 エピローグは未だ遠く
シュヴェールトの亡骸が、光に分解されていく。彼の身体には地面が透けて見える。
「……何かある」
祐希がシュヴェールトの亡骸に駆け寄り、彼の左胸を注視する。俺も駆け寄ると、彼の左胸、心臓があるはずの場所でビー玉大の闇が不気味に蠢いている。ただ光が無いだけの生温い暗闇ではない。そこには巨大な密度を持つ”闇”があった。
「ブラックホールみたいだな」
「これってもしかして……っ、ジュン危ない——!」
祐希が何かを言いかけた瞬間——
闇がシュヴェールトの左胸を突き破り、桑原さんを担いで咄嗟に身動きの取れない潤の左胸に向かって一直線に突っ込んだ。
…
……
………
「……何も起きない?」
薄れつつあったシュヴェールトの体は闇が飛び出した瞬間、支えを失ったかのように光となって弾けた。一方で闇を取り込んだ俺にはなんの変化も感じられない。安心すべきか不安に感じるべきか。
眉を顰めて俺をじっくりと観察していた祐希だが、何も変わりないことを確かめるとひとまずホッとしたように息を吐き出して言った。
「今のところ、シュヴェールトみたいに殺してみないことには今のがなんだったのかは分からないね」
「いきなりのマッドサイエンティスト発言!?」
祐希なりに微妙な空気を切り替える意図も込めた言葉だろう。なんだかんだと考えてもどうにもならないので、有り難く乗っておく。
……もはや不安しかない。意味がわからない。
「あー駄目だ駄目。いいや考えんのやめよ。経過観察してから考えよ」
イマイチ切り替えきれなかったが、未練には蓋をする。
「とりあえず一件落着って事で。それと……俺はどうしたらいい?」
家に帰って元の生活に戻れるのだろうか。俺としてはそれ以上のことはないのだが、学園生活に戻るにはには色々とあり過ぎたように思う。
「異世界にある私の家に来てもらうことになるかな。私ともう1人住んでるけど、部屋は空きがあるし」
今回の事件で、シュヴェールトの背後になんらかの組織が存在している可能性が強く浮かび上がってきた。その組織が〈調停者〉の存在を認識し、あまつさえ敵視しているとなれば、周囲の人間に害を及ぼしかねない。
「そうか。そう……だよな」
彼らを人質に取られるような危険を避けるため、常識人としての躊躇いを振り切ってスマホを破壊し、ゴミ箱に捨てる。ハッキングされれば、これらの現在位置が筒抜けにだってなりかねないのだ。
「小麦には心配をかけるだろうな」
「小麦には申し訳ないね」
「あと悠史」
「あと悠史」
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