第2章17話 シュヴェールト撃退説明会

「それで、どうしてあんなに無茶なことしたの?」


 詰問タイム。怖い。


「他、方法、なかった。勝算、少し、見えた」


「……」


「……いや、勝算はあったんだよ。半分……3割くらい」


「人はそれを無茶と言うんだよ?」


 やだ、微笑みが怖い。超怖い。怖いんで弁明、もとい説明させて。


「あー……あいつ牛丼屋で隠れてたじゃん?あの時どうしてすぐに斬りかかってこなかったのかな、って思って」


 一度は厨二病だと片付けてしまったのだが、冷静に考えるとあいつあんまり厨二病じゃない。技名以外。少なくとも、失敗のリスクを冒してまで斬りかかるタイミングを選ぶ程には見えなかった。出てこい、という俺の呼びかけに応じたのには、何か別の理由があるのではないか。——例えば、時間稼ぎのような。


「もしかしたら、あいつの権能にはクールタイムか何かがあるんじゃないかと思ったんだ」


 思い至ったきっかけは祐希の魔術だった。彼女の権能による魔術はそう乱発できるものではない。すぐに魔力が枯渇してしまう為だ。事実、シュヴェールトの必殺技は、調停者の権能にどこか似ている。それなら、彼の権能にも何か制約があるのではないかと考えた。


「普通に考えて、あんな風にバラしたら即、殺されてたわけだけど?」


 返す言葉もない。……だから無視。


「……それで、あいつは屋上で既に必殺技撃ってたから、実はもうしばらく撃てない状態だと判断して……あー、まあ、そのまま突撃しただけだけど」


 改めて整理してみると、とんでもなく無茶なことばかりしている。そもそも死に戻り自体が奇跡中の奇跡で、牛丼屋で逃げられたのは完全に偶然。シュヴェールトを屋上から突き落とすのだって推測からの行いで、そもそも必殺技がなくたって俺なんて簡単に斬り捨てられていてもおかしくなかった。実際勝算なんて無きに等しかったわけだ。


 話しながら俺たちはビルから出る。


「ところで、シュヴェールトの…その、死体はどうするんだ?」


 ——祐希が口を開くより先に、話題を逸らす。今の説明で俺は祐希に対して、意図的に死に戻りを隠しながら話していた。祐希に心配をかけたくなかったし、話せばきっと責任感の強い彼女は自分を責めただろう。自分の行動の責任くらいは、自分で背負うべきだ。

 人の機微に聡い祐希のことだ。俺が何かを隠していることには気がついていたかもしれない。しかしそこには触れず祐希は言葉を返す。


「それなんだけどさ……」


 シュヴェールトを突き落とした路地裏へと角を曲がる。






「必要、無いみたい」



 ——シュヴェールトの亡骸なきがらが光を帯び、あたかも魔力を散らすかのように拡散していた。

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