第2章16話 戦いの終幕
シュヴェールトの刀を短剣で受け止め、そのままの勢いで後ろへ跳ぶ。数少ない投げナイフを投擲するが、最も容易く弾かれる。
「シュヴェールトって言ったね。キミは一体何者なんだ?」
——人間離れした身体能力を持ち、あまつさえ調停者の権能じみた力を扱う彼は、いったい何者なのか。
彼は一呼吸置き、刀を構え直す。
「〈終わりの教会〉
はぐらかすような名乗りに応じ、祐希はおざなりに名乗りを上げる。
「
一瞬ののち、シュヴェールトに再び打ちかかる。
——自覚は、あるのだ。突破口の見えない戦いに、余裕がなくなってきている。増えていく切り傷の分だけ、焦りは募っていく。
刀を短剣で受け流し、蹴りを入れ、避けられては飛び退く。
ドアをこじ開ける必要がなくなったのでまだ少し残っている魔力も、今は役に立たない。今無理をして魔術を撃ったところで、魔術の反動に体力を奪われて首が飛ぶのがオチだ。
「どうして調停者を付け狙う?何が目的だ?」
「——全ては《終焉の魔女》の為に!我らは〈教典〉の導きに従うのみ!」
冷静さを失わなかったシュヴェールトが一転、その瞳に狂気的な光を宿す。
「まず最初に死ぬのは《デミゴッド》。次に《不死鳥》。その後で《統率者》。俺が一度に殺し尽くすと、運命はすでに定められている!無駄な抵抗はよせ」
——何か、水面下で大きな闇が蠢いている。世界を呑み込む終焉が、迫っている。
——ならばこそ、今ここで死ぬわけにはいかない。生き残って、世界の脅威に対処する。それが調停者としての責務なのだから。
「——キミは、既に人を殺したことがあるか?」
これは、祐希が覚悟を決める為に必要な問い。彼女は調停者として生きてきたこれまでの人生に於いて、人間を殺めたことがなかったから。
「あるだろうな」至極平然と。「お前たち人間だろうと、潰した虫をわざわざ記憶に留めはしまい?」まるで今朝食べた朝食を聞かれでもしたかのように。顔色ひとつ変えず、口にした。
「——っ」
祐希の覚悟は、決まった。
——そして、潤の覚悟も。
「祐希、スイッチ!」
「わかりにくいな、もう!」
口ではそう言いつつも、祐希はなけなしの魔力を炎弾に変え、即座に撃ち出す。
「……っ!」
咄嗟に炎弾を斬り払ったシュヴェールトに、潤が体当たりをかます。一瞬だけ躊躇って——呆気なく、あまりにも呆気なく、柵のない屋上の縁から彼を虚空へと押し出す。
「——ッ!……教典には、こんなこと……ッ!何故……!!」
呆然とする彼の顔は、恐怖に満ちていた。——自らの死に怯えたのではない。ただ世界が教典の記述から外れること——教典に裏切られるれることだけを、ひたすらに恐怖していた。
「お前の本、情報が古いんだよ」
そう言い放って、夜桜潤は彼の死を見届ける。
勝利に沸く無粋も、手を合わせる偽善も、その場にいる誰一人、犯さなかった。
潤はただ一言、息を吸って。
「お前がなんと言おうと、お前は人間だったよ」
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冷血担当なのにあんまり冷血感のないシュヴェールト君。無個性な彼は、きっと『当て馬刀次郎』として名を残さないでしょう。
担当=性格じゃないって今のうちに言っとくよ。
……まぁ、他の罪業司教さんたちはきっと強烈な個性を持っているんじゃないかな。
2章完結まで後わずか。きっと。めいびー。ふぉろー。えすえぬえすでせんでん。(強欲
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