第2章15話 剣戟の傍らで
「——っ」
ドアもろとも吹き飛ばされ、屋上に転がり出る。
俺の上に覆い被さるのは——血みどろの人間。
「——っ!桑原さん…!」
「生き……ている……心配…するな」
桑原さんが苦しそうに声を絞り出す。
「庇ったか。相も変わらずしぶといやつだ」
舌打ちして憎々しげに吐き捨てるシュヴェールトを警戒しながら、祐希は俺に耳打ちする。
「アイツの相手は私がする。君はその間に逃げて」
「——」
はたしてアイツに祐希が敵うのか?祐希の実力がどれほどのものなのか、俺はよく知らない。だが、シュヴェールトはたとえ魔獣の群れだって一瞬で壊滅させると、俺は断言できる。何故なら、アイツの力を俺がこの目で見てきたから。この
そう俺が抗議するより早く、祐希が主張を改める。
「——いや、君は戦いをよく見ていてほしい。私は少しの間しか持ち堪えられない。戦いの外から見なければ気がつけないものがきっとある。アイツをよく観察して、勝ちの目を掴み取るんだ。それが《統率者》である君の役目だ」
自分が命を賭して時間を稼いだところで、俺と桑原さんを護れはしない。それを彼女は他の誰よりも理解しているのだろう。そして力が及ばない不甲斐なさも、きっと抱えている。
——1番の役立たずは、俺だと言うのに。
「行ってくる」
憎々しいことに会話が終わるまで待っていたらしいシュヴェールトに向かって、どこからか取り出した短剣を手にして祐希が打ちかかる。
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俺には気絶した桑原さんを戦いから遠ざけ、戦況を見守るしかなかった。
「……不甲斐ないな」
不甲斐ない。祐希に多くを背負わせてしまう自分の無力が情けない。
祐希は今もシュヴェールトと剣戟の音を響かせている。
袈裟斬りを後ろに跳んで避け、さらに踏み込んだ斬り上げを短剣で巧みに受け流す。身軽なステップで背後に回るが、振り返りざまの斬撃を避けきれずに肩に傷を負い、大きく後ろに飛び退く。
袈裟斬りから傷を負うまでに3秒も掛からなかった。
「俺がのこのこ入っていっても一瞬で死体が生産されるだけだよな」
いくら素早く動けるようになったところで、それだけで頭の判断力が上がるわけではない。ラノベやアニメなどとは違う。これは
「今の俺にできる最善は、視て、考えること」
奴に弱点はあるか。隙のできる瞬間があるか。付け込む弱さはあるか。
……何一つ思い浮かばない。戦闘態勢に入った奴の動きに隙はなく、突ける弱点など俺の目には映らない。
いっそ牛丼屋で彼から逃れたような奇跡に縋るしか——いや。
——牛丼屋で彼から逃れた。それは、本当に奇跡だったのだろうか?目の前で繰り広げられる剣戟に、一切の隙はない。こんな相手が至近距離にいて、人2人抱えた俺が彼の意表を突いた程度で逃れられたなど、自惚れるにも程がある。
「あの時、どうして奴に隙ができた?どうして射程が長いアナイアレーションを撃って来なかった?」
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