第2章5話 『夜桜潤』
「夜桜潤!君は全ての可能性を秘めた《統率者》だ!《デミゴッド》と同調しろ!!」
頭では、意味がわからなかった。可能性?俺には持ち合わせがない。《統率者》?俺には似合わない。
——それでも、信じてみようと思えた。
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——夜桜潤は、生来運のない子供だった。
生まれる前から心臓が止まりかけ、5歳の頃には階段から転げ落ち頭を強打。小学生の頃にはインフルエンザにノロウイルス、その他諸々感染症のオンパレード。何度か車に轢かれそうになり、中学3年生の終わり頃、遂に事故で両親を失う。独り生き残った潤は、親族もいないため天涯孤独の一人暮らし。
高校には入ったものの、荒み切って友達作りはおろか今までの数少ない関係も全てシャットアウト。それでも登校だけはする中途半端な律儀さを発揮していた。
——そんな矢先。
「やあ。君もあぶれたのかい?」
酷い台詞と共に、祐希は唐突に俺の心に土足で上がり込んできたのだった。
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あの時はなんて無神経なやつだ、と思った。だが、何度も話しかけられるうちに彼女のことがわかるようになってきた。彼女も、俺と同じようになんらかの事情を抱えている。言葉や表情には表さない、寂しさのようなものが感じ取れるようになった。
最初は、同情だったのだろうか。無視を決め込んでいた俺も、だんだん彼女と話をするようになった。なかば付き纏われて一緒に行動するうちに、同情は自らを憐れむ気持ちと共に薄れ、祐希に対しての感情は友情や親愛、別のものに移り変わっていった。
こんな意味のわからない状況でも、掛け値なしに信じようと、そう思える。
「やれんだろ、俺……!!」
尻込む自分に喝を入れ、自らのなかに息づく〈因子〉に呼びかける。
溢れ出す力の奔流に名前を付け——
『神々の伝令』
——今度は自分が祐希を抱え、速くなった脚で草原を駆け抜けた。
必死な俺の腕の中で、祐希が呟く。
「まさかの逃げの一手」
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祐希後日談)あの時は緊張して血迷った。
神々の伝令、ヘルメス。狡知に富み詐術に長けた計略の神。ギリシア神話のトリックスター的存在。潤にピッタリ!幸運を司る神でもあるのが皮肉なところ。
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