第2章6話 一難去ってまたポンコツ


 ——何分走っただろうか。祐希を抱えて走っているにも関わらずさして疲労は感じない。


 ……いや、腕は疲れる。祐希重い。


「……今失礼なこと考えてない?」


 バレた。話を逸らさねば。


「脚は全然疲れないんだな」


 墓穴ドン!


「腕は疲れると?まあ《調停者》の力はかなり特殊だからね。君の脚の強化もきっと”スピード”って概念に対してしか適用されない」


「つまり走る勢い乗せてキックしても意味ないと。物理法則仕事しろよ!……さっきの魔獣といい異能といい、信じられないことばっかり起きる。ここも、やっぱりさっき言ってた異世界って事なのか?」


「うん。異世界間の行き来は私の権能のひとつだよ。魔獣に関しては普通の動物と特に区別ないけどね。普通に親から産まれて、生きるために生き物を襲う。人間の勝手な分類ってやつだよ。」


 耳慣れない用語がまた混ざっている。


「権能?異能とかじゃなくて?」


「《調停者》の能力は、〈因子〉から力を引き出すことで行使されるんだ。〈因子〉から能力の行使が許されているから”権能”なんだ」


「なるほど……?」


 入れ子式に専門用語が出てくるが、俺が説明を求める前に祐希がほっとしたように言う。


「まあともかく、魔獣は撒いたよ」


言われて振り返れば、魔獣はもう地平線の彼方に見えなくなっている。たしか人間の視点から見える地平線の距離は4、5kmなので、ざっと考えて10km程も走ったのだろうか。


「それでちょっと息切れする程度。……凄いっていや凄いけどいまいちパッとしねぇ……」


取り敢えず祐希を下ろして一息つく。


「今日はここで野宿かな……」


祐希が何やら不穏な台詞を口にしたような……


「元の世界に帰るんじゃないの?」


「いや……今気づいたんだけど……。転移は1日1回くらいしかできないの忘れてましたっ!!」


「それ普通忘れるかぁっ!?」

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