第2章2話 始めよう。〈君〉と〈私〉のラブコメ的戦場を。

 ーー私たちを消そうとしている奴には心当たりがある。


「心当たり……?」


 令和の女子高生が持つには、あまりにも物騒な”心当たり”。

 首を傾げる俺をよそに、何やら決意を決めた様子の祐希が口を開く。


「順を追って説明するよ。ーーまずは、重なり合う2つの世界と、《調停者》の存在について」


「知らないワードと知らない空気で混乱してる」


「……今茶化す空気だった?」


 やぶから棒な俺の言葉に、顔を上げて祐希は苦笑を浮かべる。


 ——祐希は変わっていない。変わっているのは俺の方で、過去のトラウマに囚われた俺自身の不安感が俺を暗闇に閉じ込めている。それだけの話だ。


 そう自分に言い聞かせて、明るい態度を務める。

 明るい態度を演じれば、それが本心に影響して、心も明るくなる。明るい心は、暗闇に沈んだ思考を温かく照らし出す。

 一種のおまじないだ。それでも心は軽くなって——


「……この世界には、重なり合ったもうひとつの世界があるんだ。所謂パラレルワールド、とは違うか。向こうは思いっきりファンタジーだからね。わかりやすく言うと、ふたつの世界はとても距離の近い存在なんだ。それこそ、何かの弾みで触れ合ってしまうくらいにね」


 よし、真面目に聞こうか。うん。

 ……考えも軽くなった。

 なんだ、なんてことないじゃないか、と、祐希とお揃いの苦笑を浮かべた。


 ただのまやかしではなく、そのおまじないは効果を発揮する。まともに考えられるようになりさえすれば、この程度の不安に負けるほど祐希への信頼は薄くないのだ。



 彼女は徐に立ち上がり、十字架の様なアクセサリーを取り出した。通り魔の男はまだ気絶している。もうすぐ警察が来るだろう。


「2世界の均衡を保つ7人の《調停者》。その1柱、私は”ヘカテの娘”《デミゴッド》」

 彼女の握る十字架、いや、十字路を模したアクセサリーが眩い光を放ちーー



 直後、目の前には広い広い平原が広がっていた。


「さあ、始めよう。〈君〉と〈私〉のラブコメ的戦場を」




 聞きたいことはありすぎるくらいあるのだがーー


「キメ顔作ってるとこ悪いけど、なんか囲まれてない……?」


 ーー話を聞くのは、まだ後になりそうなのだった。



=================================


祐希がすごいかっこつけてきてる。まだ早いぞ、そのセリフは。


コメカリ冒険編、始動。

凄いごっつい内容になってるけど大丈夫。ついてけないのはここだけだから。読者と潤を置き去りにして良いシーンだから。そして魔法的要素はかなり例外的な力。


〈p.s.ヘカテはギリシャ神話に出てくる魔術や十字路の神。《デミゴッド》はあくまで《調停者》の”役職”の一つで、神はいません。〉

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る