怠惰くんは決意します

シールさんとの夜が明け、起床する。

今朝も日課のお世話朝食・歯磨き・着替えをしてもらい、孤児院に戻る。


シールさんは今回、中々離してくれなかったが、たくさんおはなしし今後の好感度を天秤にかけたので、解放してもらった。


少し心苦しいが、僕は適齢になれば魔導学園に入学するつもりだ。付かず離れずを続け、最後には弟離れしてもらわなければならない。


孤児院の自室に戻り、包装をリームちゃんの部屋に持っていく。

昼寝までのミッションコンプリートを目指しているので、躊躇いなく部屋をノックし声をかける。


「リームちゃん、今大丈夫?」


「ちょっと待って!……どうぞ!」


少しドタバタと音が聞こえたが、素知らぬ振りをする。女の子の戦闘力は準備に左右されるから無闇に聞くなと人生の先輩前世の従兄弟が言っていた。


「失礼します。…相変わらずきれいな部屋だね。おはようリームちゃん」


「おはようネムくん。あとありがと♪ところで何か用事でもあった?」


リームちゃんの部屋は小物がたくさん置いてあるが、しっかり整理されている。


「日頃遊んで貰ってるし、感謝の気持ちをこめて贈り物でもと思って。これ、受け取ってください」


ラッピングされたルームウェアを渡す。


「え…?ほんとにありがとう!ビックリしちゃった。開けてもいいかな?」


「いいよ。もしよければ、あとで着て見せてくれると嬉しい。」


「わぁ…。ふわふわできれー…。今着てみるよ!申し訳ないけど、少し部屋の外で待っててくれるかな?」


リームちゃんは喜んでくれているようだ。嬉しい。


「わかった。楽しみにしてるね」


そうして部屋を出る。少しすると


「もういいよ!」


と声がしたので部屋に入る。




…めっちゃかわいい。


「(ん゙ん゙)…ごめん、少し見惚れてた。とっても可愛いよ」


今更だが、リームちゃんの見た目について説明しよう。

彼女は明るい赤髪のショートカットに金眼…というより明るい黄色の瞳の子で、耳の上に黒い角がある。角といっても丸を描くようにねじれており、小悪魔系って感じだ。


リームちゃんに渡したルームウェアはパステルピンクと白のボーダーだが、ふわふわした生地と幼くすべすべした肌の対比がなんとも言えない可愛さを演出している。


齢3〜4歳にして天使と悪魔を両立させた完璧系美女を完成させてしまった。


リームちゃん可愛い自分の才能が怖い



「見惚れてただなんて…。でもありがと。今度お礼させてもらうね」


「いやいや、これ自体僕の日頃のお礼だから。気持ちは嬉しいけど遠慮しておくよ」


正直、この光景がお礼になっている。今日も1日頑張れ気持ちよく寝れそうだ。


「えー…。じゃあこうしよっか」


リームちゃんが近づいてくる。…いや近い近い近い。


リームちゃんの顔が僕と10cmくらいになったところで上に上がる。額に優しい感触が────


「ちゅ♡はいお礼終わり。…ちょっと恥ずかしいから1人にさせて」


リームちゃんが茹でダコみたいになってる。めちゃくちゃ可愛いんじゃが。



「…ありがとう、嬉しいよ。じゃあまた」


気の利いた言葉が全く思いつかないので、定型文を残し部屋を去る。






…ドキドキがおさまらない。


今僕はどんな顔をしているのだろうか。

頬肉の吊り上がりは感じている…。

目尻も少したれはじめているのだろう。

もうだめ。むり。お部屋行く。



「あーあーあーあー」


ごろごろごろごろ



他の人に合わせる顔がないので幸せで顔がゆるゆるのため、僕は早めの昼寝をする事にした。






起きた。

流石にお昼ご飯の欠食を続けるのはマズイので、食堂にいく。


顔は…マシにはなっているだろう。

食堂のおばちゃんに声をかける。


「おねーさん!お昼ご飯!おまかせで!」


「やだネムくん。おばちゃんで良いっていつも言ってるのに。遅いけどお昼ご飯ね」


簡単なものを出してくれる。このあとは年長のお姉さんに会いに行くので、近くに座り、早めに食べることにする。


「いただきます」


ぱくぱくもぐもぐ。


「ごちそうさまでした」


そう言い、おばちゃんに空の食器を渡す。


「はい、お粗末さま」


振り向いて自室に行こうとすると、廊下の柱から金色のサイドテールがはみ出ている。


「こんにちは、ニールお姉ちゃん」


「…こんにちは、よくわかったわね」


年長のお姉さん、ニールお姉ちゃんだ。

9歳くらいの女の子で、耳は長い。金色の髪をツインテールにしていて、瞳は翠色。よく腕を組んでいる。


「お姉ちゃんが大好きだから。考えてることも段々とわかるようになってるんだよ」


「わ、私だってあなたが好きだわ!り、理解し合ってる関係性だものね!」


彼女は純粋なエルフらしく、胸が膨らむ兆しが見えない。が、抱きつかれると女の子って感じで柔らかい。


「今変なこと考えてたのもわかるわよ」


ジト目を向けられる。ツンデレさんだけど、僕のことが大好きみたいだ。よく誘拐される。


「あ、そうだ。お姉ちゃん、ちょっと僕の部屋にきてくれる?」


そのまま部屋でプレゼントを渡そう。楽だから。


「いきなり部屋に連れ込もうなんて、おませさん。仕方ないなぁ」


デレッデレの顔でそう言うが、僕はよく彼女の自室に担ぎ込まれる。

ブーメランというかなんというか…まぁ、幸せそうだしスルーしよう。


少し歩いて自室に着く。


机に置いてある包装を彼女に渡す。


「ニールお姉ちゃん、いつもありがとう。感謝の気持ちをこめて創りました。受け取ってください」



「え…ありがとう。……うぅ…」




…なんか涙出てない?


「お姉ちゃん、大丈夫?」


「な、なんでもないの。贈り物なんて貰ったこと無くて…ついね。」


大袈裟だと思ったけれど、そうか、孤児院の子供は普通の家庭と違って早めに自立しなきゃ行けない。


僕がシールさんに気に入られてるだけで、普通は贈り物とかないのか。


「なら、お姉ちゃんのはじめていっこもーらい!」


無理矢理にでも明るく振る舞い、暗い雰囲気を取り除く。が────


「はっ…はじめて…ネムくんがはじめて…///」


真っ赤になってらっしゃる。耳年増かな?まぁ、その年頃だと性教育も教えられるのだろう。


ちなみに、この国では10歳になると魔導学園に通うのが一般的だ。


前座として家庭で教育を施し、適齢の春に地方、または中央の学園に通う。

この前座の教育に、魔法や歴文、理数、性教育等が入っているのだろう。


中央は貴族の子弟、または推薦が必要で、その上試験の難易度も高いんだとか。


どこも5年制で、留年はない。

中央だけは毎年ボーダー以下の子が転校脱落させられるんだとか。


この孤児院も毎年1人、中央の推薦枠を貰っており、半年後にはニールお姉ちゃんも試験を受ける。


余談が長くなってしまったが、今はプレゼントのことだった。


「開けてみていい?」


「どうぞ」


ニールお姉ちゃんはスルスルとリボンを剥がし、包装を開く。


「柔らかくて、あったかい。それにかわいい…」


「お部屋で着る服なんだ。よかったら着て見せてくれるかな?」


「うん…。さ、流石に目の前で着替えるのは恥ずかしいから、後ろを向いていてもらえる?」


「う、うん。ごめん」


そう言って後ろを向く。


いつもはツンデレ…というより勢いのあるデレデレなのだが、今日はしゅんとしたり赤くなったり、ギャップにやられてしまいそうになる。


そうこう考えているうちに着替えが終わったようだ。


「どう…かしら」



「あ…う…」


例えが浮かばん。


ただ可愛くて、語彙が僕から遠ざかっていく。パステルグリーンと白のボーダーに、透き通るような白い肌、そこにきれいな金髪が合わさる。


幻想的な美少女が目の前に立っている。


「すごくきれいだよ。例えが浮かばない僕が恨めしい」


「き、きれ…。ありがと!」


照れ隠しなのか、僕を抱き抱えてベッドにダイブする。

僕の部屋のベッドは時々シールさんも突撃してくるので、ダブル程度の大きさがある。


「ほんとにありがとね。お返しなんだけど…ネムくんは頭がいいから中央の学園に行くでしょう?私はその頃には卒業しているのだけれど、そこで教授として残ろうと思うの。」


すごい将来設計だ。瞳を見る限り、決意も覚悟も本物だろう。


「だから私、ネムくんになんでも教えて上げられるようになるの。ネムくんの5年分の知識は私が用意してあげる」


目頭が熱い。

この人は僕の為にこんなに一生懸命になってくれる。

それに釣り合うようなことを、僕はしてきただろうか。


毎日のお世話に添い寝。それに年長としての仕事。


お世話をしながら笑いかけてくれて、時々つんつんした態度で褒めてくれる。


彼女のが頑張っているのに、彼女には見返りが少ない。


…いや、まだ半年あるんだ。

僕の中の怠惰には悪いが、半年間はこの人のために費やそう。


せめて、それくらいはしなければ。

でないと怠惰な人間から、人以下に落ちてしまう。


「そんなに僕のことを考えてくれてたなんて、気づかなかった。ごめ…いや、ありがとう。そしてお願いします」




僕の為に頑張ってくれると聞いて

嬉しくて涙が出る。


8年後、この人に頼って学ぶために

今この人の頼りになろう。


転生して色んな人と関わったけれど

こんなに僕のことを思ってくれる人がいる。



だから



この半年だけは、特別にしようと思った。

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