怠惰くんはみんなと話します ②
節制ちゃんから離れていくと、男の子が歩いてくる。
少し無愛想だが切れ長の目で、クール系のイケメンだ。確か彼は憤怒くん。
「怠惰くん。俺は憤怒の大罪だが、常に怒ってる訳じゃない。怒ることが多いだけだ。扱いづらいと思うけれど、よろしく頼むよ」
見た目に反してというか、罪に反してというか、とてもいい人だった。
「うん、こちらこそよろしくお願いします」
少し驚いたためか、定型文で返してしまう。
「ははっ、緊張しているようだね。また後で、ゆっくりと喋ろうか」
勘違いさせてしまった。コミュ力のレベルが低いとこうなるのか…スキルにあるかな?
少しうろちょろしてると女の子が見えた。歩き方がかっこいい子が近づいてくる。確かあれは…忠義ちゃんだ。
「先程自己紹介致しました、忠義ちゃんでございまする。主に武芸を嗜んでおりまする。怠惰くん殿、お話致しましょう。」
うん、キャラが濃い。
なんていうか、創作物のくノ一みたいな感じ。
「よろしくね。僕は体力がないから、武芸…運動はあまりできないかな。こんな僕でよければ仲良くしてよ」
これは100点だろう。僕のコミュ力さんは今日最大の活躍をした。
あれ?なんか忠義ちゃんが悶え…俯いて震えている。
「(かわぃ…ん゙ん゙)…怠惰くん殿のような方を影からお守りするのが夢でございました。できればあちらに行っても交流をお願い致しまする」
なにかを最初に言ったように見えたが、聞き取れなかった。言っていた内容は少し大袈裟だし僕も男の子なので守られるというのは虚しいが、仲良くしてくれそうだ。
「あっちで会えたらよろしくね。それじゃ、僕は他の人とも話してくるよ」
そうして彼女の近くから去り、他の人とも話していった。
やっぱりみんなの性格は大罪、美徳に引っ張られるようだ。いや、共鳴してるのか。僕も寝たい衝動に駆られている。
あとはコミュ強の勤勉ちゃんと話すだけというところで、椅子に向かう。
「節制ちゃん、僕の気持ちを聞いてくれるかな」
節制ちゃんは驚いた顔をする。
「返事は向こうで聞くって言ったじゃない」
「うん、返事はしない。でも、伝えておきたいことがあるんだ」
僕は1度深く息を吸い、そして言う。
「僕は君が居なかったら前世で頑張ろうとしなかった。
君が応援しててくれたから頑張って走って、君が勉強を頑張っていたから僕も追いつこうと努力できた。
恋愛とかはわからないけれど、僕にとって君は眩しい存在で、目標だった。
向こうでまた会えたら、同じように引っ張っていって欲しい。」
少し恥ずかしいけど、言いたいことは言えた。
節制ちゃんは────
「えぇ、もちろんよ。私は節制の美徳。あなたには節度を持った生活をしてもらいたいの。
たとえあなたが怠惰の大罪だとしても」
その言葉を聞いて嬉しいと感じる。だらだらと生きることが目的なのに、何故だろう。
「ありがとう。それじゃあまた」
「えぇ、またね」
そうして節制ちゃんは去っていく。
僕は落ち着くために、椅子に座る。
神様から話を聞いている時は<座らされている>という感覚が強かったが、いざ自分で座ってみるととても心地いい。
勤勉ちゃんにはとても申し訳ないと思うが、椅子の魔力には抗えず、僕は意識を手放した。
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