第2話 仲良くなろう作戦

ああ、なんて良い天気美味しい空気なのだろう。自宅から見える外だけ。応接間で相対したアイリス・ハルランご令嬢は目元を真っ赤にされしゃくりあげている。まるでこちらが暴漢を働いた男のようだ。


私はベルドレイン王国の誇り高き騎士。王に誓って不貞は働かない主義だ。しかし―――なんだろう、この釈然としない状況は。


私は何かしたのだろうか? 確かに私を初めて見た方は地面に伏したり子供は泣く始末。……自覚はしている。私の顔が怖いのだ。顔が怖いだけならまだしも体躯が人並み以上に大きく身長もゆうに190センチを越えている。そこに低い声鋭い目付き筋肉質の体……これで怖がらない人はまずいない。うん。怖がられる要素満載だなと納得。


―――にしても。と、アイリス嬢をチラリと見やる。パチリと目が合った。すると更にじわじわと目尻に涙を溜めていく。……どうしろと? 目を合わせなければ済む話しだろうか? だが、結婚生活においてお互い目を合わさぬなど離縁待った無しではないか。それだけは嫌だ。何故泣かれて恐れられてしまうのかはわからないが私の顔が怖いなら目を合わせなければ良いのだ。そうだ。せっかくの初恋の相手、絶対に破談などにしてなるものか!


闘志を燃やすが内心芽吹くものもあった。私を覚えていますか? 何か粗相をしましたか? と、アイリス嬢に聞いてみたい。そこでハッとし頭を振る。いけない。彼女は私の見てくれが怖いのだ。だから目を合わせたり話しかけるのも当分の間は出来ないだろう。そう自分に言い聞かせ聞きたいこと知りたいことを心の奥にしまいこむ。


「アイリス嬢、本日は移動が多くてお疲れでしょう。どうでしょう。お部屋を用意してありますのでゆっくりお休みになられては?」


「はい……。お心遣いありがとうございます」


兄上がアイリス嬢に手を差し出すと少しのためらいと共にその手を取った。案内しますとそのまま兄上はエスコートし、アイリス嬢は去って行く。その間、私を見る事は一度もなかった。二人が去って行き一人部屋に残された私は頭を抱える。


アイリス嬢は男が嫌いではなく私が嫌いなのだ。こんな簡単な答えが何故すぐに出なかったのか。子供でも考えればわかることなのに。


「お慕いしていますって言えたらどんなに幸せなんだろう?」


ポツリと呟いた疑問は空中に溶けて霧散した。恐らく、それを伝えるとアイリス嬢はより泣いてしまうだろう。一人になるとネガティブになってしまう。ここはポジティブに捉えよう。低から始まったならここからこれ以上下落することはないのだ。まずはアイリス嬢に怖がられないように私を知ってもらって仲良くなろう。


そうと決まれば! と早速行動へ移る。ルクシムに便箋とペンを用意させる。


「さあ、仲良くなろう作戦開始だ!」


▼☆☆☆☆▼

「アーノルド様。その作戦名は少し安直過ぎませんか?」


「そんなことはない。私とアイリス嬢の未来の為だ!」


「そういうものなのですか」


「ああ! これでアイリス嬢と仲良くなっておしどり夫婦と周囲に呼んでもらうのが私の理想だ!」


「それは良き考えですね」


使用人にとって主人の幸せが一番である。よってルクシムの幸せはとても優しいのに見た目で損するアーノルドがアイリスと仲睦まじく過ごす事だ。


その為に自分に出来ることは何でもしようと誤解を招いてしまう主人に誓うのだった。

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