海賊の矜持
光を照り返す岩石が浮かぶ漆黒の海を、勇壮に進む船が一艘。船体には堅強な火器を大量に持ち、巨大な旗にはこの黒き海を切り刻まんとする剣と何者にも侵されない誇りを示す骸骨がはためいている。
誇り高き船あるところに誇り高き指揮者あり。その者の名は「宇宙大海賊ケーチラス・ブンナ・グルゾイ」
父であり伝説の宇宙大海賊であるツラカセヤ・ブンナ・グルゾイの野望を受け継ぎ、宇宙に眠る34の秘宝を集めるため、彼は暗黒の大海原を駆ける!
「数多の宇宙を支配したあのツラカセヤ・ブンナ・グルゾイですら、1つも見つけ出すことのできなかった34の秘宝、俺が必ず見つけ出してみせる。この海賊旗に誓って!」
「頑張りましょう。坊っちゃ、いやケーチラス船長!」
「あたしらも全力であんたをサポートするよ。おっと、早速見えてきたね、最初の目的地が」
「おお、あれが地球か! 宇宙地図で見るよりもずっと美しいな。よし、最初の秘宝に向かって全速前進ヨーソロー!」
「アイアイサー!」
掛け声と同時に海賊船が光の速さで前進する。地球時間で1時間もたたないうちに青と緑が輝く星にたどり着いた。
「なんだなんだ?」
「でっけえ……!」
突如現れた漆黒の船はあっという間に昼間の世界を闇夜に変えてしまった。
「あーあー。俺の名はケーチラス・ブンナ・グルゾイ。やがて全宇宙を手中に収める宇宙大海賊だ。その野望を果たすため、俺は今、宇宙に眠る34の秘宝を探している。何か知っている者は今すぐに教えろ。教えてくれたら45万マネイをやる。教えなかった場合は……わかっているな?」
その声が持つ気迫は集まった人々に心臓を握られたような絶望を錯覚させた。しかしその絶望の最中立ち上がる者がいた。
「何が海賊だ! 人の星に勝手に来て何言ってやがる! ていうかお前ら泥棒と何が違うんだ!」
「そ、そうだそうだ! 人の物盗んでんのは同じなのになんでそんなにかっこいい名前してるんだよ! 泥棒が可哀想だ! 泥棒差別だ!」
「そうだそうだ! 海賊も怪盗も泥棒と同じなのに名前がかっこよすぎる!」
「ええ、俺も?!」
「あーそれ僕も思ってたんですよね。だってなんか無駄におしゃれじゃないですか。漢字で書いても、泥の棒と海の賊。差がありすぎですよ」
「じゃあ何でお前海賊やってるんだよ!」
「ハロワの職業適性検査でAだったんで」
「あっそう……。てか、うちハロワで募集してたんだ……」
「船長なのに知らなかったんですか。さすが坊っちゃんですね」
「何ボソボソ言ってるんだ! お前たちは泥棒の尊厳を損ねているんだぞ! ちょっとは謝罪の意思を見せろ!」
『しゃーざーい、しゃーざーい、しゃーざーい』
「謝罪コール」は地球全土に広がり、やがて「改名コール」や「差別コール」も混ざって、美しかった地球は過剰な善意と小さな悪意で溢れた。
「どうします? こんなに言われてますけど」
「船長……」
「どうしますか船長……」
「ふっ、ぐすっ。……もう海賊やめる!」
かくして宇宙大海賊ケーチラス・ブンナ・グルゾイの伝説は志半ばの14分の1で終焉を迎えるのだった。
完
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