もうちょっと重くなかったっけ
「やっぱ美味いな、これ」
ベコベコに凹んだ小さな鍋に入った汁を縁の欠けたお椀によそう。ちなみにこのお椀は古い家の台所を漁っていた時に見つけたお気に入りだ。川の模様と縁の欠け方が絶妙にマッチしていて一目惚れしたのだ。
それにしてもこの汁、なんとなくで作ったわりにかなり美味しい。味付けは塩コショウとそこらへんで拾ったスパイスだけ。具もわずかな白菜と乾燥わかめくらいだ。やっぱりお出汁がいいんだな。
「もう一杯飲んじゃおうかな」
そう思って鍋を覗くが、汁はほとんど残っていなかった。
「作り直すか。具材変えようかな」
これまたボロボロになったリュックからもやしを取り出す。
「あー、やっぱり」
袋を開けると鼻を刺すような臭いが漂い始め、ひげ根も茶色く変色している。完全に腐っている。これ以外に残っている食材はない。
仕方ない。動こう。ちょっと遠出すれば大きめのスーパーにたどり着ける。そこには食材も出汁を取るための材料もたくさんある。でも食材は野菜や魚などのナマモノより、ある程度保存のきく缶詰めの方が良さそうだ。
そう思いながら、空にしたリュックを背負い、大きめのスーパーへと向かった。
2時間ほど歩いて、いつも来ているスーパーに着いた。最初は缶詰めコーナーへ向かおう。足場が安定している物から入れる。最近ようやく覚えたことだ。
リュックの中に入れられるだけの缶詰めを入れた。よし、あとはお出汁の材料だ。ただ、これがまた大変な作業なのだ。そこらじゅうに転がっている物からできるだけ大きいヤツを選ばなければならない。
しゃがんで材料の選定を始める。こうして腐ったチーズのような臭いのする地面での宝探しもすっかり慣れてしまった。1時間ほどして、そろそろ腰が痛くなってきたという頃、ちょうどいいサイズの物を3本見つけた。
「よし、今日はこんなもんかな」
酷使し続けた腰を反って慰め、陳列棚を背に歩き出した。レジを通り過ぎても咎める人はいない。
スーパーから出ると振り返って、手を合わせる。
「どうか安らかにお眠り下さい。いただきます」
約1分間それをした後、さっきいただいた3本の骨でジャグリングをしながら住処に向かって歩き出した。その技術に視線を吸い込まれる人も感嘆する人もいない。
3本の骨は手の中と空中を行き来する。
「ふふっ」
拍子抜けするような軽さにいつも笑みが溢れてしまう。
「誰もいない世界も案外楽しいなー」
肩を弾ませて、重いリュックを背負い直した。
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