蓄え
コケコッコー! 壁と一体化した時計から鶏の鳴
き声が響いた。エサの時間だ。
僕は特殊なケースから透明な粒を一つ取り出し、
水槽の中ににそっと入れた。
すると水槽の中の小さなツボから親指サイズの半透明の魚が出てきて粒を咥えたり離したりしながら
徐々に食べていく。
この魚、一見するとただの少し小さい魚だか、そ
の体にはとてつもない可能性を秘めているのだ。
その可能性に不可欠なのが今、魚が食べているこの粒だ。粒の中にはタイやフグといった高級魚のエキス数百種が凝縮されている。
ここまで聞いてわかった人も多いだろう。そう、この魚は一匹で高級魚数百種のおいしさを持つのである。
とは言うものの、この魚が販売開始した当初はあまり話題にはならなかった。なぜなら高級魚数百種という怪しさ満載の宣伝文句と、何より魚がその味に至るまで三ヶ月間、決まった時間に餌を与えなければならなかったからだ。
しかし発売から三ヶ月後、発売当初に軽い話題作りのために購入していた人々が次々に同じような動画や写真をSNSに投稿した。
その内容は、魚が第二次性徴期の子供さながら、一日の間に親指サイズから人間の子供サイズにまで巨大化し、水槽を粉砕しているというものだった。
その時から魚を買う人が飛ぶように増えた。各々の魚をやや豪勢過ぎる水槽の中でマニュアル通りに育て始めた。僕もまた、その一人だった。
餌を咥える愛らしいくも、しかしどこか不気味な姿を見ているとついつい時計を見るのを忘れてしまう。明日で、この子を家に迎えて、もう三ヶ月だ。
壁の時計からガオォー! と虎の鳴き声が響いた。朝か。
そうだ! お役所から届くお昼ご飯の量を減らしてもらわないと! お昼頃にはこの子も大きくなっているだろう。
いやー今日が学校じゃなくて本当によかった。おかげで新鮮な魚を食べられる。楽しみだなあ!
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