第26話 インペリア本土決戦

               ユミ


 いよいよインペリアの本土決戦が始ろうとしていた、ローグの艦隊を支援しながら露払いして首都に攻め込む。

ユミ「しかしなんでローグの軍隊をそんな支援しなきゃいけんのよ、海岸線から攻め込む必要ある?エクセリオン(インペリアの首都)強襲でいいんじゃないの?クードリオン皇帝さえ始末すりゃいいんちゃうの?帝国なんて権力が1人に集中してるんだからぶっ倒すのは一番簡単なのに」

レーゼ「ローグには借りがあるからね、メディアの操作ではクン・ハはハーレム作ることしか頭にない暴君ってことになってるけど、今の指導者たちの中では一番先が見えてる人間だよ。悲劇は彼が弱小国の君主として生まれてしまったこと。騎士団家にでも生まれてたら、Saintがやるべきことをもうすでにクン・ハが達成していたかもしれないよ。

 Saintの設立当初に研究施設の場所を提供してくれたのがクン・ハだったの、その代わり技術提供しろってね。

 技術提供は断る代わりに税金はいっぱい払うってことにした。そのオカネでローグは核ミサイルとか原潜を作ることが出来たというわけ。ローグがどっから資金調達してるのかって不思議に思わなかった?」

ユミ「テレビとか見ないんで知りませんわ、ローグが核兵器持ってるってことすら」

 チラとカナビスが視界に入った、レーゼさんも裏切り者。正直そうとは思えない、レーゼさんは一番組織に尽くしてるっていうのか、真面目に仕事してるっていうのか。レムという命令だけ送ってくる偉そうなやつに一番従順に見えるのに。明らかにレムのことが好きなんだと思ってた。ワタシだって一応女だからわかる、女は自分の嫌いな人間のためには絶対に働かない。


 確かに自分は姿を見せずに一方的に命令だけ、しかも反論は許さんってのは横暴だ、下の人間がついてこなくなって当然って気もする。でも命令はすべて的確だった、反論の余地なんて一つも無いくらい。一体何が気に食わないんだろう・・・


 そんなことを考えていたらもう戦場は目の前だ、どうせワタシがそんなに働かなくたって問題あるまい、適当に戦ってなるべくエクセの行動を監視したいものだけど・・・うわぁ、さすがにちょっとむずかしいかも。インペリアだってアホではない。一応覇権国家なのだ、海岸線にはうじゃうじゃ戦車隊や砲台が密集してる、安物のギアを使ってる一般兵とかには戦車をぶっ壊すほどの火力はない、当然ワタシ達幹部クラスが戦車を潰していかないといけん。こいつはちょっと骨が折れそうだ・・・


ネル「エクセは中央、ソアラ、シャンブルズは左翼、他は右翼からエンゲージしてください、長距離迫撃砲を優先的に破壊、艦隊の上陸を援護してください」

本当にゲームじみて来た、しかも鬱陶しい護衛ミッションってやつだ


 戦闘が始まるともはや大激戦で、エクセの行動を監視とかは無理な話だった、戦車を倒すには手順がいる、排気口を塞ぐか、搭乗口から直接中に爆弾を入れるかだ。非常に面倒くさい。まず爆弾を持ち歩かないといけないのが面倒だ。

ユミ「ヴゥードゥー(戦車)8機目!クソが!どんだけおんねん!」

ネル「300機近くありますね、エルダーマン基地からさらに増援が来てます」

カナビス「クソっやたらめったら硬ぇ!」


 不意に民間人みたいなやつがワタシに突撃してきた、クセで攻撃を躊躇してしまった。民間人っぽいやつは撃っちゃいけないってのをカラダに刷り込まれてるから。

 何のつもりだ?明らかに正規軍じゃない、装備が貧弱すぎる、良く見たら女の子だ。同い年くらいの

女の子「なんでこんな事するんですか!ワタシ死神♠のファンだったのに!こんな殺戮行為やめてください!」

ユミ「・・・勝手にファンになって勝手に自分の理想を押し付けるな。キッズのみんなに教えてやってくれ、君等は勘違いしてるっていうか無責任なオトナに騙されているよ。

 一人一人がわかりあおうとしないからわかりあえないと思ってないか?

違うよ、お互いにわかりあおうと努力してるのに、それでもわかりあえないことだってある、というかだいたいはそうだ。認めたくない事実だけれど、誰もがみんなの幸福を望んで必死に努力しても、誰も幸福に出来ないよ、嘘みたいな話だけどそれが真実なんだ、この世界をそう作った存在を憎むしかない、もしかしたらこの世界を作ったやつも、まさかそうなるとは思ってなかったのかもしれないけどね。すべての存在が善意で行動したのにも関わらず、結果最悪の結果になるってことだってある。

 あんたらは無知で阿呆だからただ単に自分が傷つきたくないから優しい人間のフリをして、結局嫌なことを他人にやらせてるだけのオトナの言う、平和だとか、キレイゴトを真に受けて、若者特有の浅はかな潔癖主義で行動しようとする。

何もしない奴らは「命には無限の価値がある」っていう。だからヒトは殺しちゃいけないってあいつらは言う、けれど知らない国でどんだけ知らない人間が死んでも

あいつらは何もしない、道端でヒトがぶっ倒れていても、何もしない。命にそれだけの価値があるなら、数人のヒトを殺して、何百人ものヒトが助けられるなら、戦おうとするはずだ。命の価値が高いと思えば思うほどそうするはずだ、けどあいつらは何もしない。無限にも大小がある、一つの命の無限と百の命の無限なら、後者に不等号をつけられる。

 あいつらは命、に価値があるなんて本当は思ってはいない。ただ単に、あいつらは「何もしない」ということを運命づけられた人間なんだ。NPCみたいに同じセリフを言うだけで、自分で考えることが出来ないんだ。

 誰かから与えられたセカイの理解じゃなくて、自分の目と脳で考えて現実を理解しようとしろ、他人の価値観や世界観をそのまま受け入れるな。そうすれば、戦わないといけないことがあるって嫌でも気づくはずだ。

 自分の手を汚せば、痛みが、絶対消えない痛みが自分にもつく、戦うことから逃げるな、ここは楽園じゃない、戦場だ。覚悟を決めた人間だけが立てる聖域だ、半端な覚悟で戦場に来るな、戦場を汚すな。ワタシが気に食わないなら殺すつもりで来い、こっちも本気で戦ってやる、死ぬ勇気が無いなら帰れ、ここはオトナの来る場所だ、ガキは帰れ」

女の子「なっ・・何言ってるのか全然わからない」

?「かっくぃ~」

一瞬死角付近でキラリとなにか光った、バックファイアしてなんとか躱す、ギアの一番見ずらい場所を熟知してこういういやらしい攻撃をしてくるということは玄人だな・・・

パルミナ「よーやっと見つけた♪ってなんで死神ギアじゃないんですか!?」

耳慣れたねっとりしたいやらしい声、死神が持ってるような大きな鎌(サイス)を肩にかけ、紫の髪にキャップ、ロングパーカーの女が戦車の上に立ってた、いつか会うとは思ってたけどね。

 パルミナはいわゆるネットストーカーで、ワタシを常に付け回している。ワタシと同じタイプのギアを使い、ワタシと同じような格好をして、っていうめちゃくちゃイタいやつだ。ワタシが行くところには必ずいる、下手をすると先回りされている。どういうハッキングを駆使してるのか知らないけど、常にワタシを監視してるのだ。

 死神ギアっていうのはワタシがいつも使ってたギアのタイプだ、大きな鎌を模した武器、パーカー、キャップ。つまり今のパルミナがコスプレしてるそれである。

パルミナ「おい、そこのにわかファン、トップヲタに道を譲りな、ユミもファンに優しすぎ、そんな真面目に説教したってこいつらに理解できるわけない、戦う理由は、戦う人間にしかわかりっこないっての」

ユミ「パルミナ?インペリアにもギアがあったんか?」

パルミナ「これはサイクロイドっていうの、まぁ簡単に言えばサイボーグってわけね」

ユミ「サイボーグ??自分の身体を改造したの?バカじゃないの?」

なるほどイズナさんみたいな自分改造型か、パルミナも確実にそっちのタイプだ、勝敗よりもスリルを求める。ただイズナさんは外部取り付け型だけど、サイクロイドってのは完全に自分のカラダ置き換え型らしい。

パルミナ「別にサイクロイドになりたかったわけじゃないけど、ユミがSaintに肩入れするなら、ワタシは必然的にDARCに入るしかなかったよね。ユミと戦いたいもの。そしてGEARよりもサイクロイドのほうが単純に強いよ、通信によるラグもない、操作も脳波読み取りで直感的、GEARは電波が遮断された地下では戦えないからね」

ユミ「じゃあとっとと電波の届かない地下に逃げれば?それとGEARのほうが圧倒的に有利に決まってるじゃん、GEARは倒してもいくらでも変わりがいるんだぜ?」

パルミナ「おもろいじゃん、同じ敵を飽きずに何度も倒すことほどワタシ達の得意なことはないじゃない?ユミを何度も何度も殺して、そのたびにひぃひぃ喘ぎ声が聞けるなんて最高♪」

ユミ「ワタシが生身だからって手加減するとでも思ってんの?ワタシはどんな時でも本気で倒すこと以外の戦い方を知らないよ、手を抜かれることが殺すよりも最大の侮辱だって知ってるからね」

パルミナ「それでこそワタシのアイドル、勝負!」


 っ!?はやっ!


 ちょあっ!あっぶねー、サイスでひっかけられそうになった。確かに速い。人間の運動神経が認識して行動するまでのラグが普通の人は0.3秒、反射神経に優れた人が訓練して0.2秒。そして通信ラグが0.3秒だ。

 どうやらサイクロイドは反射神経も改造してるみたいだから、0.5秒のラグ、つまり12フレームの差だ、パルミナは雑魚ではない。同フレ(ーム)で優位を取れるだでも結構なアド(バンテージ)なのに、12フレームの差はかなり決定的な差だ。ディス(アドバンテージ)-40点ってとこ。普通の戦い方だと簡単に真っ二つにされる、先読みでカウンター入れるしかない。


 サイスは振り回して叩き切る武器じゃない、それをやるなら普通に槍とか剣を使えばよい、サイスは相手を引っ掛ける武器なのだ。大鎌をぶん回して斬るなんて派手なだけで無駄なだけの行為だ。だから使い方はサイスというよりも、パイク、という武器に近い、馬の上に乗ってる貴族の鎧に引っ掛けて引きずり落とし、首を掻き切る。

 サイスなんて武器を使ってたのはワタシ(とパルミナ)だけだ、その残酷なパフォーマンスが大衆には非常に受けがいい、大衆ってのは残酷なものが大好きだから。

 ワタシはエンターテイナーとして魅せる戦いをしたいほうだからサイスを使ってた。ワタシがソアラに魅せられたように、なんか見てる人に影響を与えられたいいかもと思って。どうやら悪い影響しか与えなかったようだけれど。


パルミナ「ニャハハハハ!おっそい!なんなんですかそのギア!何の武器も持ってない!限界まで軽量化してスピード重視ってこと?かわいい!かわいい!ワタシも今度それ使う!ぶっ壊してやる!家に持って帰ってコピーしよ!

ユミ「ぎゃあぎゃあうるせぇ!!」

パルミナの言う通り、このギアはスピードだけに特化してカスタムした。装甲を削り、武器を捨て、限界までスピードを上げた。武器は両手に超至近距離のレーザーがあるだけ。発勁みたいに、相手に直接触って、壊すというより回路をショートさせるのを目的にしてる。ハッキリいってめちゃくちゃ弱い、一つの目的のためだけに作ったから、それ以外にはからっきし弱い。もちろん弱いといっても通常兵器になんかは絶対に負けない。

 けどサイクロイドだかなんだか知らないけれど、対ギア戦の想定は全然してなかった。けどサイクロイドが生身の身体をベースにしてるなら、関節の可動域が限定される、ギアの関節は360度ぐるぐる回る、人間のカラダはそうはいくまい。  だから鎌を持ってる右手側の裏にまわりこんで、手を絡めて後頭部を吹き飛ばす、これだ。その戦い方ワシが発明したんやで、弱点くらい知ってるっての。

 フェイントをはさみつつ、腕を絡ませようとする、はい決まり、脳漿ぶちまけろ!って思った瞬間、サイクロイドの右手が取れた。うっそぉ?パージ出来んの!?絡め手を失ってよろけた瞬間、スパッと右手をいかれた。

パルミナ「ひひひひひ♪右手もーらい」

ユミ「どうなってんねんそれ!頭の下全部機械なの?マンガじゃん!」

パルミナ「教えるわけなかろーが!ぶっ壊れろ!」


・・・よっしゃわかった、やったろーじゃん。

パルミナが大きく振りかぶってワタシの頭を狙いに来た、これは出し得ワザだ。出し得ワザってのは出してもこっちにはスキが出来ないからとりあえず牽制に出しておく攻撃のこと、当たると思って出してはない、ただタイミングやリズムの問題だ、けれどそうやって適当に出した攻撃こそ、カウンターを狙うには絶好のポイントになる。

 もちろんワタシがそんな大振りの攻撃食らうわけないから当然避けると思ってたパルミナはスパンと頭が吹っ飛んだのを見て逆に面食らう、そのスキを見逃さずに首を両手に掴む。


ユミ「首なんか飾りですよ」

パルミナ「なるほど、やっぱユミは最高だね、その勝ちにこだわるひたむきさ、イッちゃいそうだわ」

 パルミナの首が粉々吹っ飛んだ。


ワタシはどんな敵にも絶対に全力を出す。これは優しさだ、手加減されるってことほど悲しいことはない、自分が惨めだし、相手に申し訳ない、戦いを挑んできたら絶対殺す。戦うってことはそういうことでしょ?


 この攻撃の仕方を地獄突き、あるいは閻魔突きっていう。ギアのムーブを研究するためにいろんな武術の本を読み散らかした。ほとんどの剣術は精神だのなんだのクソの役にも立たない精神論ばかりだけれど、非常に役立つ剣術もある。これもその一つ、相手の攻撃を全く避けないで、同時に喉元に突きを入れる。本来は首を肩でふせいで致命傷だけは避けたりすり道連れ技なんだけれどギアならそんなの関係無い。首くらいくれてやる。

 身についた悪い癖ってのは抜けないもの、首を狙えば当然避けるってのが常識、避けない、なんて動きを想定してない、想定していても、ついついクセでやってしまうものだ。

 ギアは首を失っても、まだまだ大丈夫、頭にはカメラとスピーカーがついてるだけだ。駆動部とか大事な部分は心臓部分にある。カメラは背面カメラがあるのでまだ戦える。首なし、右手無し、で背中向きに歩いてるのは非常にキモいだろうけど。

 

 パルミナをかまってる間に相当押し込まれてしまっている。っていうかギアは暗殺向きの兵器なんだ。こういうオープンフィールドでフィールド制圧するのには向いてないよ。

ユミ「ネル!ごめん手間取った!戦況は?」

ネル「敵のサイクロイド部隊の投入で相当押し込まれてます、左翼を押し込まれて囲まれたらローグの部隊は全滅だと思います、エクセ、左翼の援護をお願いします」

ぐっ・・これじゃあなんだかワタシが足を引っ張ってるみたいだ、でもエクセが救援に来てくれたら間近で監視するチャンスだ。

エクセ「どうやらそうはさせてくれないらしい、久しぶりだね、アルカ」





 



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