第15話 天使苦戦
ユミ
エレノア「総員スクランブル、ローグの核ミサイル準備を確認、これより緊急オペレーション L'angee 天使作戦を実行します」
エレノアのアナウンスで起こされた、トレーサー
(耳につけられた埋込式のデバイス、耳にピアスのようにつけられた通信器と脳内に埋め込まれた本体からなる。もちろん裏切り者は、本体が爆発して死ぬ。けれど脳漿をぶちまけるような大爆発じゃない、脳の大事な神経接続だけを焼き切る小規模な爆発だ。よく映画とかで頭蓋骨がぶっとぶほどの大爆発をしてるけど、一体あんなことして誰が掃除するのだ?ワタシはいっつもアクション映画を見てて気になる、誰が片付けるのそれ?って。そんなことしなくても呼吸系の神経接続が切れればあっさり人は死ぬ)
のアナウンスはまぢで耳障りだ、脳の中にガンガン響いてキレそうだ。眠い目をこすりながらガイストに乗り込む。
ユミ「なんだよ、天使作戦って、ふざけおって、ローグのミサイル基地を襲撃すんのか?」
エレノア「違います、ガイダンスを確認してください」
ガイストのパネルに映し出された作戦命令をパッと見る、なんじゃこれは?
ユミ「どういうこと?ローグにミサイルを撃たせる為にインペリアの戦闘機を妨害するの?意味わからん、ローグはここにミサイル撃とうとしてんでしょ、なんでミサイルを撃たせるようにすんのだ?」
シャンブルズ「ごちゃごちゃ言わんで命令されたことやればえぇねん、議論は禁止、忘れたんか」
ユミ「うっせーハゲ、議論してんじゃなくてどういう意味かって聞いてるの、質問、だよ、自分が何をしてんのかわかんないと、次の行動に移る判断が遅くなる、小部隊に自由行動を許可するのが現代の戦場の戦い方なんだよ、スパイ風情が戦場ででかい面すんな、そしてオマエは二度とワタシの回線に入ってくるな!」
なんだか口答えしそうだったのでミュートにした。常にミュートにしたいのにガイストはいちいち使用後に初期化されるから鬱陶しい。
レーゼ「ユミ~、口喧嘩はご法度なんですけど。それと質問にも答えられないわ、誰もこの作戦がなんのためか知らないんだもの、レムになんか狙いがあるんでしょ」
ユミ「ちぇっ・・・目糞で目が開きませんわ」
ギアのキャリアーが発射された。どうせしばらくはやること無いのだ。顔でも洗いたいよ、それに対戦闘機はめんどうだ。戦闘機の妨害が目的だから今回は量産型のジャマーで出撃、通称「ハエ」。
対戦闘機用とはいえギアは空中戦なんかやるようには出来てない、もちろん戦闘機の攻撃に当たるほどノロくもないけど、超音速機に当たる高速ミサイルなんてギアにはペイロードオーバーだ。煙幕やらフレアやらゴミをばら撒いて邪魔するのがせいぜい。
「ハエ」は動きが直線的じゃないから、戦闘機のミサイルを避けるのはたやすい、戦闘機に限らず三次元的な動きをするものに対して有効な武器ってのはほとんどない。ゲームでも蚊とかハエみたいな動きをする敵が一番鬱陶しい、どんだけ速度が早くても鳥のように直線的なら撃ち落とせるけど。
空中線はとにかく結局お互い燃料切れまでぐるぐる飛び回って決着がつかないのだ。ぶっちゃけすげーつまんない。ゲームだったらまずカットされるところだ。これは現実だからつまんないこともやらんといけん。
イズナ「・・レーダーに映らない、R-3だ、完成してたんだね」
イズナさんは例によって自分のカスタムしたジェットパックみたいなのをつけて生身で誰よりも早く発進している。ワタシもかしこじゃないけど、イズナさんはとびっきりのバカだ。GW以来初めて核ミサイルが使われるかもしれないってのに。こういうやつが台風が来るとサーフィンに行くんだな。
ユミ「なんですかそれ?ヨーグルトドリンク?」
イズナ「インペリアの新型ステルス爆撃機、たぶん最後の有人爆撃機だね、あれ1つだけでローグの年間国家予算よりも高いと思うよ」
カナビス「カナビス、エンゲージ、フレア(熱ターゲットミサイル&目くらまし用のデコイ)射出すんぜ」
カナビスのギアがフレアをばら撒いた。光弾がキラキラと空に舞い上がる。ワタシはローグがちょっと可哀想だと思った、カネもないのにプライドを捨てない。戦う姿勢を崩さない。みんなローグは阿呆で無謀だという。メディアもすべてローグはまさに悪党でやることなすことすべて間違ってるという論調だ。でも批判するばするほど、まさにローグは彼らの弱点を攻撃してるっていうことの裏返しだ、危険もなければ誰も批判しない。危険であること、それを存在意義と言うのではないかね?
ローランでは誇りとかプライドってものは愚かさの象徴だ。かっこつけんな、って口癖のように言う。厚顔無恥こそ褒められるべきことで、カネのためにどんなことでもやるのが良い、誇りなんて持っていても1銭の得にもならん。
でもたまに疑問に思う、なんでかっこつけちゃいけないのだ?
ユージェニー・クードリオン
インペリア作戦司令部
R-3パイロット「こちらレイヴンチーム!なにか奇妙な兵器から妨害を受けている!ミサイルから人型のなにかが飛び出した!」
オペレータ「レイヴンチームが何者かから攻撃を受けました」
作戦指揮官「ローグの新兵器か?ローグのどこにそんなカネが?」
ユージェニー「何を焦っているのかね」
作戦指揮官「いえ、問題ありません、R-3、撃墜しろ。安心してください大統領、R-3の装備は完璧です」
ユージェニー「そうでないと困るね、どれだけの大金をつぎ込んだのかわからん」
しかしローグにそんな新兵器を開発するだけの技術があるとは思えない、おそらくミサイルに無人機を載せてるのだろうが・・・。無人機、うんざりするような兵器だ。これまでにたくさんの新兵器の開発を見てきた、ジェット機、ステルス機、核兵器、弾道ミサイル、毒ガス、神経ガス、ウィルス兵器・・・
だがこの無人機というのはそのなかでも最悪だ、こんな兵器が人類に幸福をもたらすことは絶対に無い。誰にでもわかる、この兵器は人の道を外れている。
ジェット機や戦闘機は移動を格段に便利にした、核兵器は発電にも利用可能なエネルギーだ、弾道ミサイルのネットワークはインターネットと、宇宙開発に生かされる、毒ガス、神経ガスの研究は医学の発展に寄与し、ウィルス兵器とてワクチンの開発に役立つ・・・
けれど無人機、この兵器は違う。これは殺戮兵器、ではないのだ。人を殺すための兵器ではない。
人に置き換わるものなのだ、これは人間を時代遅れのガラクタ倉庫に放り込む。殺されるよりも悲しい結末なのだ。自分たちがもはや時代遅れのゴミになるということは。
シビリアンコントロールが人権運動によって生まれたと考えてる阿呆がいる、それは違う、シビリアンコントロールは総力戦の必要性から生まれた。総力戦を遂行するためには軍事独裁では士気が保てない。総力戦において一番戦力を発揮するのがシビリアンコントロールという政治形態だったというだけのことだ。
軍事独裁とは、平和、だからこそ成立する政治形態だ、戦争がないから軍事力を国民へ向けることが出来る。戦争が起こって、外部の戦争に軍隊を割けば、内部からの破壊行為によって一瞬で軍事政権は滅ぶ。内外の二面作戦となるからだ。戦争は独裁と軍事政権を破壊するというメリットがある、それによって国家の生産性が上がる、だから定期的に戦争を行う国家は繁栄する、戦争をしなくなった国家は衰退し崩壊する。
政治形態は戦争の形態によって決まる、市民の意思などではない。無人機は戦争の形態を変える、そして社会の形態も変えるだろう、人間は不必要なもの、騎兵部隊のように歴史の中に埋もれることになる。
R-3パイロット「誘導ミサイル、当たりません!ちっ、フレアが邪魔だ」
ユージェニー「どうなっているのかね?撃墜出来ないではないか」
作戦指揮官「旋回能力に優れた機体のようです、妨害に特化していて、撃墜は難しいかと」
これだ、科学者や軍人は出来る出来るといって出来た試しは無い。こいつらは10倍判断を間違う、1年で完成すると言うものは10年かかる。1億で出来るというものは10億かかる。そしてなぜかこいつらは謝らない、自分の非を認めない。
あなたの判断に従った結果だ、と責任だけを押し付けようとする。平和がこうさせたのだ、訓練ばかりではこういう人間しか育たない。英雄はみんな老いぼれて死んだ。時間が人間を腐らすのではない、平和が人間を腐敗させる。
ユージェニー「強行突破せよ、小型核兵器の使用を許可する、大統領命令だ、なんとしてでもミサイル発射を阻止せよ」
クン・ハ
クン・ハ「ミサイルの発射はまだなのか!命令で5分以内に発射出来るように常に配備せよと命令したはずだ!」
主席技術官「ミサイルの目的地点が変更されたため再計算に時間がかかります」
クソが、事前に計算を済ませておけ。技術官というのはいつもこうだ。言われたことしかしない、融通が効かない。それなのに自分を賢いと思っているのだ。お前らなど参考書を読んだだけのクズにすぎない。
伝令官「失礼いたします、未確認の無人機がインペリアの戦闘機と交戦に入りました」
クン・ハ「・・・どういうことだ?」
エクスの兵器か?まさか、エクスが我らを助けるなんてことは絶対にない、エクスに限らず、この星のどこにも我らの味方なんていない・・・、じゃあSaintの奴らか?なぜインペリアの妨害をする?
クン・ハ「おい!ミサイル誘導システムがハッキングされて、別のターゲットに変えられてしまうってことはないのか?」
主席技術官「いえ、誘導システムはミサイル内蔵でスタンドアローンです、こちらのシステムが乗っ取られても、ミサイルのハッキングは不可能です」
クン・ハ「誘導に使う衛星がハッキングされていてもか」
主席技術官「誘導は衛星ではなくて、弾道計算によるものです。むしろ時代遅れなのが幸いしました、相手がどれだけ天才的なハッカーでもこのミサイルのハッキングは出来ません、そもそもハッキングするシステムが存在しないのですから、直接破壊する以外にこのミサイルを止める手段はありません」
ちょっと毒を吐いたなこのポンコツ野郎め。でもそうなのだとしたらますます不可解だ。わざとミサイルを受けて、オンカロがどれだけ強固かということをアピールしたいのか?
我らの流星ミサイルを甘くみているのだとしたら誤算だ、多弾頭ミサイル流星は、公表の威力の数十倍ある。鈍重であるが、威力だけはどんなミサイルにも対抗しうる、いかにオンカロが対核兵器施設だとしても無事では済むまい。南極ごと吹き飛ばすはずだ。
あの南極の氷が溶けて世界が海に沈むとかいう与太話か?世界を巻き込んで自殺しようというのか?それも無い。科学者の予測がこれまであたったことなど無い。世界の気温が上がる、と予測するが、ではなぜ過去に氷河期やらで気温が上がったり下がったりしたのか?と聞くと、わからないと答える。
奴らは占い師と同じだ、予測だけはいくらでもして、外れたことはなかったことにし、あたった時だけそれみたことか!と言う。南極の氷が溶け出して、世界が海に沈む、そんなことはただの当てずっぽうにすぎない。実際はどうなるか誰もわからないのだ。世界が滅びるならそれでいいではないか。誰かがこの核の平和という閉塞した文明の袋小路から人類を解き放つべきなのだ。壁ごとぶち抜かなければいけないのだ。
主席技術官「発射準備完了!」
クン・ハ「全弾発射!」
ユージェニー・クードリオン
R-3パイロット「こちらレイヴンチーム!目標地点に到達出来ない!」
作戦指揮官「大統領、間に合いません!」
驚いてしまった自分を恥じる。このクズどもはローグなんて弱小国などいつでもひねり潰せると鷹をくくっていたが、実際にやってみるとこうなのだ。このワタシでも驚いてしまった、ワタシも老いぼれてボケていたのだった。自分たちを過大評価していたのだ、なんと愚かな。慢心こそ最大の敵だったはずだ。
科学者と聞くと、医者と聞くと、ついついそれに騙されてしまう。それはすべてウソなのだ、奴らは科学者でも医者でもない、科学の本を少し読んだだけの素人と、ちょとだけ医学の本を読んだだけの素人、つまりそのほとんどはクソ馬鹿野郎なのだ。本当の科学者、本当の医者はほんの数人しかいない、なんでワタシは愚かにもこいつらを信用してしまったのか、一生の不覚だ。
補佐官「大統領!念の為に核シェルターに避難しましょう」
ユージェニー「・・・、どれだけ無能なのだ、どれだけ無能なクズばかりなのだ!体裁ばかり作ろうクズどもめ!これ以上恥を晒すな!ワシは絶対にここを動かぬ!ワシはこの国と死ぬ覚悟は出来ている!クードリオン家に退却はない!」
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