第9話 ローラン国防省襲撃

シンカ(シンクレア)


  ローラン首都カオルン 国防省情報分析科   

 

突然の大規模停電、電脳ネット全体へのハッキング、Saint社の生放送、本当にこの白いヴェールをかぶった聖女、なる人物がこの停電の首謀者なんだろうか。

 声紋認識データベースに照会すると、おそらく合成音声だと判明した、しかし現行の合成音声システムよりもはるかに自然でナチュラルにしゃべっている。それともベースとなる誰かがいてそれを加工しているのか。

 この聖女、なる人物の人相からもデーターベース照会をかけてみたが、ヴェールで輪郭線がはっきりしないのでなかなかハッキリした答えはかえってこない。


上司「それで原因はわかったのか!?」

シンカ「ですからMatriX接続は逆探知が構造的に出来ないようになっています、それに電脳OS系は接続出来ません、ここの機器は全部電脳OS何も出来ません、だからSaintOSの導入を提案したじゃないですか」

上司「わけのわからんことを言ってないで早く停電の原因を特定するんだ!」

 

 なんでこんなバカが情報分析科の科長なのだろう、もちろん政治家のボンボンで親のコネでこの地位にあるんだろうけど、それにしたってクズすぎる。だめだこの国は、なんでワタシは早く海外に移住しなかったんだろう。といってエクスもインペリアも嫌いだ、コミュニティアは封鎖されていて問題外だし。どこにも逃げ場なんてない。ローランが特別悪いのではない、良いところなんて無いのだ。

 それでもこんな斜陽の国家の軍属になってしまうなんて自分の愚かさに呆れた。ため息をついて外を見ると、ラジコンのヘリコプターに無骨なマシンガンを搭載した物体が無数にそこに浮かんでいた。


 バキバキバキバキ!!


 正気の沙汰とは思えない、国防省に直接攻撃してくるなんて。これのどこが永久平和なんだ。一応防弾ガラスなのでガラスで怪我することは無かったけれど突破されるのは時間の問題だ、急いで地下シェルターのほうに向かう。


シャンブルズ「エレベータのほうはあかんで!階段で降りや!」

廊下でシャンブルズさんが手招きしていた、なんでエレベータがいけないのかわからないけどそれに従って非常階段を降りる、このシャンブルズさんは薄目のスーパーストレートの黒髪でとても若い。ヴェインランドからの客員?か何か、とにかくよくわからない経歴でたまに姿を見せる。

 ヴェインランドなんて未開の地から来た研修生みたいなものなのに、その能力は非常に高い。ヴェインランドを甘く見てはいけないのかも。ワタシはヴェインランドにはまだパソコンすら無いと思っていた。

シンカ「エレベータ止まってるんですか?」

シャンブルズ「あのエレベータ、襲撃されたら真っ先に狙われる、それに閉じ込められたらそのまま何日間か出られませんわ、この状況で電気屋が修理にもけぇへんでしょうし」

 シャンブルズさんは変な共通語でしゃべる、ヴェインランドなまりってやつなんだろう。でも言ってることは正しい、なるほど、そんなこと一度も考えたことなかった。ここが襲撃されるなんて、ワタシだけじゃなくここにいる人間誰一人考えたことすら無かっただろう。

 地下にシェルタ-を作ってるにも関わらずだ。そういうものだからそれを作っただけで、誰一人本当に攻撃されるなんて想像も出来ていなかった。

 地下司令室にたどり着く、色んな人間がとにかくあたふたしていた、だが何かやってるフリをしてるだけで実際には何をすればいいのか誰もわからないって状態だ。

シンカ「カオルンのパワーマップ(電力供給マップ)出してください」

シャンブルズさんは端末で、カオルンのパワーマップを表示した

シャンブルズ「二年前の核発電廃炉条約が締結されてから、首都の電力網はサブがない、およそ90%火力発電に頼ってる、ここが止まれば、首都は、ディープ・ブルーやね、光の無い深海に沈みますわ」

シンカ「あのクソキレイゴト議員どもめ、代替施設も無いのに核発電を止めるからこのざまだ!発電所が落ちたら、停電復旧にどれだけかかるかわからない、火力発電所でもテロリストが占拠したら、手が出せない」 

シャンブル図「まぁ発電所おしゃかにしたら、首都の電源復旧には2ヶ月はかかりますわね、経済は完全停止、負債の多いこの国はデフォルト不可避かな?」

シンカ「でも発電所に立て籠もるのが目的じゃないと思う、だったらローランは狙わない、もっとセキュリティがゆるゆるで簡単に核テロできる国がいくらでもあるもの…、本当の狙いは…」


ドガーン


上の階で大規模な爆発音が聞こえた、そしてバリバリいう音がだんだんと迫っている。

シンカ「うそっ、もう地下まで潜入されてるの?」

シャンブルズ「やっぱ予想通りですわ、シェルターは強固に作ったのにエレベータの作りが甘い。様子見て来ますわ、核シェルターに避難しといて下さい」

 シャンブルズさんがドアを開けると猫耳の少女が現れた。少女?なんだあれは?ロボット?ゲームに出てくるヒューマノイドロボットみたいなのだ。

シャンブルズ「そいつがシンクレアだ」

 シャンブルズさんのしゃべり方も顔つきもさっきまでと一変していた、そしてワタシを指差している。

イズナ「あの子?若いんだね、管理権限持ってるの?」

シャンブルズ「そいつがこの施設では一番優秀なやつや、他がクズすぎるってのもあるけどな」

警備員「貴様何者だ!」

 アンドロイドに警備員がつめよろうとしたところ、シャンブルズがキラリと何か刃物のようなもので大動脈を切り飛ばした。血が天井あたりまで跳ね上がった。

イズナ「無駄に人を殺すなって命令ですけど」

シャン「軍に属してるということは、自分の利益の為に誰かを殺すと宣言してるのと同じや、当然殺されることも覚悟してる、というか、しなければならない、やな」

 シャンブルズはさっきまでのシャンブルズでは無かった。目が全然変わっていた、まとっている雰囲気、空気感も。ワタシも変わってしまっていた、カラダが動かない、周りの人もだ、本当なら目の前で殺人が行われたんだ、どうにかして取り押さえようと何か行動しないといけない。シャンブルズの言う通り、ワタシタチは軍属だ、民間人じゃない。

 でも覚悟なんて出来てるわけない、人を殺す覚悟も、殺される覚悟も。

いつのまにか目の前にアンドロイドが来ていた。

イズナ「悪いけど眠っててくれる?そのほうが早い、大丈夫あなたは殺さない」

 何かチクっとした痛みが首元に走って意識がふわぁっと遠のいた、金属の冷たい手でカラダを受け止められたのを感じた・・・


 

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