第3話

「いい子だねぇ」

「ブー!」


 次の日、別のニンゲンがやって来た。

 コイツは、飯をくれる優しいお姉さんだ。茶髪のロングヘアー。垂れ目で柔和そうな表情のお嬢さんだ。この家の娘だろうか。今流行の表現で言えば「バブみがある」って所だろう。

 飯を運んできたついでに、彼女に話しかけてみた。


「ブーブー」

「そっか、そっか~」


 駄目だ、通じていない。これでは前回と一緒だ。俺には学習能力がある。

 それならば、鼻でこうして……こうして、と。地面に『ペン』と書いてみよう。文字ぐらい、勉強すれば俺にだって書けるのさ。


「何しているの?」

「ブー」


 ペンだよ、ペン。ペンを持ってきてくれよ。死ぬ前に色々と書きたい事があるんだ。


「ぺ、ン?」


 鼻先で抉られた地面を見つめ、女は呟いた。

 女は一瞬驚いた様子を見せたものの、表情をパッと明るくさせ、スマホとやらを取り出す。


「すごーい! 写真撮ってインスタにアップしよっと!」

「ブー!!」


 小型の物体を構えて、はしゃぐ女。そして、そのまま嬉しそうに帰っていってしまった。

 ……また失敗だ。どうしたらいいんだろう?

 俺が死ぬまで後一ヶ月らしい。

 一ヶ月ってのは大体三十日の事で、三十日ってのは一日を三十回繰り返した単位だ。

 つまり三十回、太陽が昇った時が俺の命日となるのだろう。

 その前に、何としても……。


 ブタってのは半年で出荷され、こいつらニンゲンに食われるらしい。

 そう、俺はこいつらに食われるのだ。

 自らを食う存在と対峙して、悪魔のようだと畏怖するのが普通かもしれない。

 だけど、俺にとって眼前の悪魔達は育ての親だ。飯を貰っている。だから、不思議と嫌悪感はない。

 走り去っていく背中をただ、俺はぼんやりと眺めていた。

 明日こそは……。

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