第10話

「おじゃまします。」

セリナはイオリのおうちにお邪魔していた。イオリに遊びに来ない?と誘われたのだった。入った瞬間、負けた、と思った。アートな空間が広がっていた。お母さんが「いらっしゃーい!セリナちゃん?!イオリから聞いているわよ~。いやーん、かわいい~。」と声をかけた。お母さんもセリナの家のお母さんと全く違う。明るいのは似ているが、イオリのお母さんは迫力があって面白い。リビングにはレコードが飾ってあったり、よく分からないがオシャレな絵や置物が置かれている。リビングは全体的に白でまとめられていて、北欧風のカフェのようだった。お母さんが「丁度自家製ミルクティー作ってたのよ。飲む?」と言ってマグカップを持ってきた。そのマグカップもオシャレだ。リビングの隣の部屋でお兄さんがギターを弾いていた。セリナは「お邪魔しています。」と声をかけた。お兄さんはこちらを見ると、またギターを弾き始めた。一言も発さず、ギターを弾いている。イオリはどこかに行ってしまったので、しょうがなくセリナは一人で演奏をきくしかなかった。終わったようだったので、一応「すごーい。」と言って拍手をした。セリナはオシャレさという点では完全にイオリに敗北していた。イオリがこんなにオシャレな人間だとは思わなかった。学校では、全然そんな感じ、出していなかったのに。本当にオシャレな人は、無駄にオシャレぶったりしないものなのなのかもしれない。セリナは良いなあ、と思った。家に帰ってこんな風にお母さんが待っているなんて。セリナの家は共働きなので、平日の夕方、お母さんが家にいるというのは難しいことだった。それに、セリナの家は普通の家だ。家にある飾りといえば、プーさんのぬいぐるみやセリナが保育園の時に作った作品だ。人の家と比べてもしょうがないのだが。セリナはイオリの家が羨ましくなった。

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