第9話


セリナは中古CDショップにいた。放課後は、たまにここに来るのだった。といっても、CDを買いに来ているわけではない。この店には、中古のCD以外に、中古の本、服、ゲーム、DVDなど色々なものが売っている。セリナは主に、本やゲームを見に来る。特に、漫画や本は立ち読みができるので、長居できるのだった。いつもなら、漫画と本のコーナーにいるのだが、今日はいつもと違う方向へ足を運ぶ。「CDコーナー」だ。ドキドキしながら、歩く。見慣れないアーティスト名が並んでいる。CDコーナーの向こうに、真っ赤なエレキギターが見えた。きっと、あのギターも中古の売り物だろう。蛍光灯に照らされてピカピカと光っている。「かっこいい・・・」ギターを見ていると、バンドの音が頭の中で流れ始めた。イオリからもらったCDから聞こえてくる音。今まで、セリナが知らなかった音。新しい世界。「セリナじゃん。」聞きなれた声がきこえて、振り返ると、イオリがいた。「最近よく来るの、ここ。」とイオリが興奮気味に続ける。セリナに会えてうれしい、と言うような声だ。セリナは「イオリも来てたんだ。」と言った。イオリは手に持っているCDを見せた。「これ、買おうかな、って思ってるの。」CDジャケットには、モノクロの男の人が並んでいた。いかにもロック、という感じだ。なんだか怖そう、そう思ったセリナは「へえ。」と答えた。「イオリってなんかすごいよね。音楽とか私全然知らないや。」と言うと、イオリは「別にすごくないよ。お兄ちゃんが好きだら。」と言った。なるほど、イオリにはお兄ちゃんがいるのか。道理で男の子っぽい雰囲気に男の子っぽい趣味があるのか、と納得した。あ、そうだ、とセリナは言った。「イオリ、ってギター持ってる?」と聞いた。イオリは「持ってないよ。お兄ちゃんは、持ってるけど。」と続けた。セリナは「ふうん。」と言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る