第8話

イオリからバンドの話をきいたのは音楽の授業のあとだった。

「セリナって、普段音楽とかきく?好きな曲とか。」「曲かあ・・・KAMIKAZEのはよくきくよ。」KAMIKAZEは人気の男性アイドルグループだ。五人組で、クラスにも結構ファンがいる。「へえ、KAMIKAZEとか好きなんだ。私はきかないな。アイドルとかあんまり興味ないし。」とイオリが言う。セリナはむっとして言い返した。「意外と良い曲あるよ、KAMIKAZE。イオリは知らないかもしれないけど。」イオリは「そうなの。全然知らなかった。」と言った。セリナはKAMIKAZEの曲をきいて育ってきた。アイドルといっても名曲はたくさんあるし、応援ソングとか、友情とか、恋とか、日常とか、いろんなテーマの曲がある。始めはそんなに期待していなかったが、聞き始めると、一曲一曲が良い曲だということに気づいてきた。落ち込んでいる時に救われることも多い。歌詞が深かったり、胸がジーンとするようなバラードがあったり、様々だ。「イオリはどんな曲をきくの?」と聞き返すと、「ロックとか、最近よく聞く。チャットモンチーとか。知ってる?」と答えが返ってきた。全然知らない名前が出てきて、なんとなくイオリのことを遠く感じた。「モンチー?モンキー?」「あはは、ガールズバンドだよ。」「きいてみたい。」

次の日、セリナの下駄箱にはサンリオの可愛らしいビニール袋が入っていた。その中には1枚のCDが入っていた。メモ帳が貼ってあり、そこには、「私の好きな曲をダビングしたよ。きいてみてね。」とかいてある。CDケースから真っ白なCDを取り出した。CDプレイヤーの電源を入れた。自分でCDを入れるのは初めてだ。いつも、お父さんやお母さんが使っているのを見ているだけだから。一曲目が流れ始めた。一曲目が終わり、二曲目が流れ始めた。三曲まできいた。この世界にはまだまだ知らない世界があるんだなあ、と思った。激しくて、滅茶苦茶な感じがして、だけどなんかオシャレだ。よくわからないけどとてもオシャレな感じがする。リビングで一人できいていたが、なんだか恥ずかしくなって音量を少し下げた。イオリは、こんなオシャレな曲をいつもきいているのか、と思ったら、やっぱりイオリってかっこいいなと思って。やっぱりイオリを遠くに感じる。4曲目が流れ始めたところで、「変わった。」と思った。1~3曲目までは同じアーティストだったが、4曲目からは違うアーティストに変わったのだ。その証拠に、ボーカルの声が違う。4、5、6、ときいて、7曲目からまたアーティストが変わっていた。イオリがダビングしてくれたCDには11曲入っていた。どれもきいたことがない曲だったし、きっとイオリが教えてくれなかったら出会うことのない曲たちだったんだろうなあ、と思う。イオリはこの曲たちにどこで会ったのだろう。一人でCDショップに行って、探しているのだろうか。

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