第6話
イオリたちは優しかった。でも、話が合わないことが、たまに、いや、結構、ある。イオリはバレー部の友達と三人で固まってお昼ご飯を食べている。そこに入るのだから、しょうがないと言えばしょうがないのかもしれない。
セリナはバレー部の監督の話や、練習の話は分からない。でも、笑顔で話をきいている。へー、そうなんだ。と相槌を打ちながら。たまに三人でバレー部の話が盛り上がって置いてけぼりになってしまう。それに気づくとイオリたちは、セリナもバレー部入ったら良いのに。楽しいよ。と誘ってくれる。セリナはイオリと違って運動が得意ではないし、バレーも苦手だ。セリナはこういうとき、どうしよっかな、と曖昧に笑って受け流している。イオリたちもそれ以上は言わないので、ここで話が終わることになる。
セリナは机を二つくっつけてお弁当を食べている2人を見た。チヒロちゃんとモエちゃんだ。チヒロちゃんとモエちゃんはクラスの中では目立たない存在だ。なのに、どうしてだろう、最近2人のことが気になってしまう。お弁当を食べながら、たまにうふふ、と笑っている。2人ともセリナと同じ帰宅部だからかもしれない。のんびりした2人の雰囲気に自分を重ねて見ていたのかもしれない。
ムーミンのお弁当箱が目に入った。お箸も箸入れもムーミンの絵柄が入っている。チヒロちゃんのものだ。ムーミンが好きなんだろうな。とセリナは思った。
私の視線に気づいたイオリは「何見てるのー?」と話しかけてきた。
私は「チヒロちゃんのお弁当箱、ムーミンだったから。」と答えた。イオリは「ふうん。チヒロちゃんっておっとりしているけど、意外と面白いよね。」と言った。「喋ったことあるの?」とセリナはびっくりして聞いた。「うん、席替えする前は、席近かったから。いまは遠くの席だけど。」とイオリ。イオリは、やっぱりイオリだなあ、と思う。
話してみたいと思っていた。しかし、話かけるのをためらっていたのには理由があった。
スズカたちのグループに居たとき。
みんなでチヒロちゃんとモエちゃんを見て笑っていたからだ。
「あの2人って影薄いよねー。」
本当だろうか?本当にあの2人は「影が薄い」のだろうか。ただ単に人を見下して笑いたいだけなんじゃないだろうか。スズカたちといたころは疑問を持つことも無かった。私はあの2人のことをよく知らない。どんな人かも分からない。ふと思い出した。クラス替えのあと、話しかけてくれたのはスズカからだった。あとから加わったサエたちも、自分から誘ったわけではない。今知った。自分から話かけるのってこんなにドキドキするんだね。申し訳なさそうにうつむいて、寄り添うようにお弁当を食べている2人。「お弁当箱、ムーミンなんだね。」勇気を出して、声をかけた。
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