第5話

はっはっはっ、サエはトイレの中ではサエの呼吸の音が響いている。最近、よく過呼吸気味になる。ふとお母さんの声が頭によぎる。

「サエちゃん、頑張って。」

中学受験のとき。一番上のお姉ちゃんが、有名な出版社に入社した。

お姉ちゃんの夢だった。サエも「おめでとう。」と言った。良かった。本当に良かった。お姉ちゃんは美人で頭が良くて、そんなお姉ちゃんの夢が叶うのは当然のことだ。と思った。お母さんは「サエちゃんも頑張って。」という。頑張らなきゃいけないんだ、と思う。なぜだか分からないけど、負けちゃいけないんだ、と思う。本当はサエは公立の中学でも良かった。だけど、誰にも言えなかった。私立の中学校に合格することが私の夢で、なによりもお母さんの夢だからだ。お母さんはがっかりしたような顔をするだろう。サエは無事、私立の中学校に合格した。ほっとした。もう頑張らなくてもいいんだ、と思ったら、心が晴れやかになった。試験は終わったはずなのに、どうしてだろう。中学校に入って、特に二年生に上がってから、キツイ。スズカに嫌われちゃだめなんだ、スズカたちと一緒にいることが、合格で、一緒にいられなくなることは、不合格で。

誰かがトイレに入ってきた。息を殺す。スズカたちだったらどうしよう。みんなが出るまで待とうか。それとも、パッと出て、「おっ、ぐうぜん。スズカたちもトイレ??」って話しかけて、、そんなことを考えていたら、話声がきこえてきた。セリナだ。セリナは先週、スズカやサエたちのグループから抜けて、イオリたちのグループに入った。スズカに悪口を言われるのかと思っていたが、意外と「うちらと一緒にいたくないんなら別に良いんじゃない?」と冷たく言い放って、それからあまりセリナのことは言わなくなった。だから、サエも「ご勝手にどーぞって感じ?」と合わせて言ってから、あの子についてはあまり話さなくなった。

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