第55話 怪人の正体

「……どういうこと?」


 不思議そうなツギオに爺さんは渋面になる。


「むぅ……大変なことにならないと良いが……」

「あの大男は一体何なの?」

「うむ。あれはわしが鶴来屋食堂で飲んでいた時のことじゃった……」


 そう言って爺さんはあの男について語り始めた。


「『こいつが居なければ!』としきりに嘆きながら酒を飲んでるあいつが居たんじゃ」

「そりゃやばいね」


 呆れかえるツギオ。


「それがどしたの? そいつと何か話すことがあったの?」

「うむ。わしは丁度『あのドス坊が居なければタイムマシンで色んな事出来たのに』とやけ酒を飲んでおったからな。そのまま意気投合してしもうた」

「そ、そうなんだ……」

 

 明後日の方を見るツギオ。


「何でも旧ブランディール界国の怪人兵士でな。『国が滅んだのはあいつのせいだ!』と久世将軍への恨み言を言っておった」

「ブランディール……地球が初めて宇宙人と戦争した時の相手だね」

「そうじゃ。久世将軍が見事勝利に貢献した戦争だ」


 ツギオの言葉にうんうんうなずく爺さん。


「でも千年前のことでしょ? それにあの戦争は地球の全部の国がブランディールの敵だし、勝利に貢献した将軍ならもっと他に居るでしょ? それが今更どうして?」

「あれじゃよ。『久世要求』じゃよ」


 そう言って爺さんは思いだすように上を見上げる。


「あの戦争の際に久世将軍が提案した『独立を希望する星系を独立させる』という条文を付け加えたことによって、ブランディールは大半の領土を失い、そこから衰亡の一途じゃった……」


 悲しそうに持っていた携帯端末で検索を始める爺さん。


「それで確か……そうじゃ。百年ほど前に皇族を皆殺しにする革命が起きてな。そこから『管理至上主義』の国を打ち出したんじゃ」

「ふーん……でもそれって別に悪い訳じゃないんじゃ……」

「問題大ありじゃよ。『管理至上主義』は『効率至上主義』じゃ。?」

「げぇ……」


 おぞましい政策に気持ち悪そうに舌を出すツギオ。


「そんな人権無視の政策を打ち出しただけじゃなく、近隣諸国まで武力で脅し始めてな。最終的にシャディラ星系連合に滅ぼされたんじゃ」

「ふーん……」

「ちなみにシャディラ星系連合は久世要求で独立した国じゃぞ?」

「……あ、そういうこと?」

「そういうことじゃ」


 衰退の原因が作ったのも久世将軍なら、滅ぼした原因も久世将軍なのだ。

 げに難しきは人の世で、こう言ったことが歴史には多い。

 爺さんが困り顔でぼやく。


「わしがうっかりタイムマシンの操作方法まで教えなければよかった……変なことにならんといいが……」

「十分変なことになったよ!」


 そう言って向こうであったことを教えるツギオ。

 それを聞いて顔を真っ青にする爺さん。


「とんでもないことになった……」

「全くだよ……」

「わしのタイムマシンが壊れてしまうとは……」

「気にするのそっち!?」


 どこまでも自由人の爺さんに呆れるツギオ。


「大体、何でそんなこと教えたんだよ?」

「酔った勢いでつい……」

「それで教えちゃダメでしょ?」

「いや、彼もかわいそうな男だったんじゃ……」


 爺さんが悲しそうにぼやく。


「彼はこっちに流れ着いてからも、なじめんでのぅ……肉体を遺伝子改造しとるから、結婚も出来んし子供作れん。どう生きれば良いのかわからないと言っておった……」

「……………………」


 何とも言えない表情になるツギオ。

 確かに手っ取り早く強くなるのは『効率よく強くなる』と同義でもある。

 だが、『引き返せない所まで強くなる』のは間違っているのだ。

 そして何よりも恐ろしいのは……怪人にとっては、それが『当たり前』だったのだ。

 爺さんが悲しそうに言った。

 

「肉体改造する前に戻すために貸そうと思っておったんじゃが……そんな使い方をするとは……」

「……何でそんな所まで行っちゃったんだろう……常識的に考えればおかしいのに……」

「……孤立化すると『常識の歪み』を指摘する者が居なくなるんじゃよ。効率を重視すればアップダウン方式にするのが一番良く……そしてそれ継続するには『外部の情報』を遮断するのが一番じゃ……」

「よくもまあ、そんな真似を……」


 眉を顰めるツギオだが、爺さんは不思議そうに言った。


「何を言う。? 親や教師の常識がダメだと子供の常識もダメになるじゃろ?」

「……………………あっ……」


 言われて思い当たることのあるツギオ。

 こういった事の良し悪しに国家も家庭も変わらないのだ。

 爺さんは続けていった。


。子供が一人前の大人になる通過儀礼を超えないから、結局子供のまんま育ってしまうのじゃよ」

「ふーん……遊びも大事なんだね……」


 うんうんとうなずくツギオだが、その頭に……


 ゴン!


 拳を振り下ろす爺さん。


「痛ぇ!」

「阿呆! 勉強も大事なんじゃ! 学ぶこともが出来ないのも一人前とは言わん! 要はバランスなんじゃよ!」

「え~? さっきは遊びも大事って言ってたのに……」

「お前らぐらいの年齢じゃと、都合の良い方の理屈を振り回すからアカンのじゃ! バランスよくやれと言っとるだけじゃ!」

「ぶ~……」


 仏頂面になるツギオ。

 結局の所、これぐらいが一番丁度良いのだ。

 何事もほどほどが肝心で、それを超えると逆に歪むのだ。

 爺さんはふかーいため息をついて言った。


「大体、お前はこんなところにおって良いのか?」

「良いのかって……何が?」


 不思議そうに尋ねるツギオ。


「何って、太陽系は今日が宝満祭りの例大祭じゃぞ?」

「そうなの?」


 忘れがちだが、こういったことが宇宙では起きる。

 地球でも北半球と南半球で春夏秋冬が入れ替わるが、星ごとに公転周期や自転周期が変わるので、カレンダーのズレが激しいのだ。

 爺さんが当たり前のように言った。

 

「それに今日は『千年箱』が開けられる年で、みんな『鶴来屋食堂』に集まっておるぞ?」

「……さっきも出たけど千年箱って何?」


 爺さんの言葉にキョトンとするツギオ。


(千年箱って何のことだろ?……)


 すると爺さんが不思議そうに言った。


「何じゃ? 千年箱のことを知らんのか?」

「うん……何のこと?」

「久世将軍が作った箱でな。千年後の祭りで開いて欲しいと封印した箱なんじゃ。何でも未来の祭りをしている人たちに当てたメッセージが入っているそうじゃ」

「……うん?」


 不思議そうにするツギオの元にピロリんという電子音が鳴った。


「ちょっと待って……うわ! 何これ!」


 恐ろしい数の着信が入っていたのだ!

 メールや電話で『早く来い!』の催促が激しい。


「うわ何で……ごめん! はやくいかないと!」

「後でたっぷり説教してやるからな!」


 爺さんの捨て台詞を聞かないふりして慌てて走り出すツギオ。


「千年箱って……一体なんだろ?」


 何のことがわからずに走って鶴来屋食堂に向かうツギオ。

 だが、爺さんは遠くから言った。


「せめて着替えてから行けよー!」

「忘れてた!」


 慌てて自分の家に向かうツギオであった。





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