第56話 生まれ変わり?

「やばい……早くいかないと……」


 家で着替えたツギオはそのまま鶴来屋食堂へと向かう。


 すると……

 

「とりゃぁぁぁぁぁ!!!」


 ゲシ!


「どわっぷ!」


 何者かの蹴りを食らってスッ転ぶツギオ。


「どうだツギオ! 参ったか!」


 ツンツン頭の幼児が偉そうにふんぞり返っている。

 

「ふん!」


クルン♪


「どわっ!」


 ツギオの足払いを食らって尻もちをつく小学生。

 ツギオはその少年の足を掴んでそのまま高らかに持ち上げる。


「何が参ったかだエーゴ!」

「ふっ! 俺との決着はまだついてないぞ!」


 そう言って短い手足をぶんぶん振るエーゴと呼ばれた少年だが、それは全て空振りに終わっている。

 やがて、手を振るのに疲れたのか、はぁはぁ息をしながら言った。


「きょうのところは勘弁してやらぁ!」

「何が言いたいんだよお前?」


 呆れて下ろそうとしたツギオだが……


「ごめんツギオ。そのまま持ってて」


 ツギオの目の前に大人が現れた。

 そして……


バチィン!


 やんちゃ坊主の尻が思いっきり叩かれた!


「うぇーん!」

「他人様に迷惑かけてその態度があるか!」


 そう言ってからエーゴの足を持ち直し、ツギオの代わりに下におろす男が居た。


「タカさんの子供はやんちゃっすね……」

「すまん。迷惑かけた」


 えんえんと泣く子供を尻目にその男は……は申し訳なさそうに言った。


「ほら! 家に入ってなさい!」

「うぇーん!」


 タカユキはカイゼル髭をしごきながら、泣いている子供のケツを叩いて家に入れる。


「タカさんは今日お休みですか?」

「残念ながらこれから仕事なんだよ、今日はうちのご先祖様が作った『千年箱』が開かれる日なんだがなぁ」

「御先祖様……ひょっとして久世将軍が千年箱作ったんですか!」

「ああそうだ」


 驚くツギオに穏やかに答えるタカさん。

 だが、すぐに不思議そうにし始める。


「あれ? 何でお前が知らないの? 青年団員は皆知ってると思ったけど……」

「……えっ? そうなんですか?」


 不思議そうにするツギオ。


(そんな風習あるなんて聞いたこともないけどなぁ……)


 全くに身に覚えのない風習に首をかしげるツギオ。


「確か……久世将軍が『千年後も祭りが続くように』と千年後に開催される宝満祭りに合わせて開くように遺言した箱だよ。俺達子孫にも内緒の手紙が書かれてあるらしい」

「へぇ……久世将軍が?」


 感心するツギオだが、違和感が拭い去れない。

 タカさんはこう言った。


「俺はこれから軍務があるから出られん。だからお前たちでやってくれって団長に言っておいた」

「は、はい……」


 未だ困惑するツギオにタカさんは言った。

 

「おっと! そうだった! ちょっと持って行って欲しいものがあるんだわ。ハルカ! あれ持って来てくれ!」

「はーい! ちょっと待って!」


 タカさんがそう言うと家の中から奥さんが真っ赤な薔薇の花束を持ってきた。

 それを手に取ってタカさんがツギオに渡す。


「うちのご先祖様はどうも赤い薔薇が好きだったみたいでな。これを俺の代わりとして飾ってくれ」

「あ、はい……」


 不思議そうに真っ赤な薔薇を受け取るツギオ。

 そしてタカさんは言った。


「早く行けって。今なら間に合うぞ?」

「は、はい!」


 慌てて走り出すツギオ。


(一体、何なんだろう?)


 何のことかわからないツギオはひたすら首を捻りながらも鶴来屋食堂に向かっていく。

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