第47話 お祭り開始!


 この町の祭りは各町の回りながら各家々で花を貰い、それに合わせて口上を言ったり、獅子を振ったりする。

 古屋形町も例外ではない。


 ツギオはシャンガを身に着けて、腰に手を当てて、玄関の前で立っていた。


「そおりゃぁ♪」


 チャンチャン♪ チャンチャン♪


 女の子の鳴らす三味線の音に合わせてツギオが前に出て演舞用の太刀を手に取る。

 

 すっ……


 それを前にかかげてから左手を腰に当て、右手で太刀を手にくるりくるりと回りながら少し下がる。


 すとん……


 そして、太刀を静かに構えて……


「おりゃあ!」


 演舞を始める!


「おりゃぁ! うぇい!」


 ヒュン! シュパ!


 綺麗な振りを見せるツギオに玄関で見ている家の主が感心して言った。


「外国の子やけど綺麗な振り見せるねぇ……」


 どうやらツギオの振りは好評のようで、みんなからの評判が良い。

 だが、隆幸は違うことが気になっていた。


(やっぱかわいいよなぁ……)


 三味線を弾く遥華の方が気になっていた。

 黄八丈の着物を着ている遥華はそこはかとなく綺麗だった。

 うなじが見えているのもポイントが高い。


「やっぱかわいいよなぁ……遥華は」

「……ああ」


 それを聞いて現実を思い出す隆幸。


「ちゃんと告白せんなんぞ?(しないと駄目だぞ)」

「わかってるよ……」


 それを聞いて陰鬱な気持になる隆幸だが、一方で何かを期待していたりもする。

 そうこうしている内にツギオの振りが終わったのだが……その次が重要だったりする。


「次は俺んちだな!」

「おい! 団長が振るぞ!」


 にわかに色めきだつ団員達。

 

「お前ら! 団長応援するぞ!」

「「「うぃっす!」」」


 団員たちが口々に期待して囲む。

 それを見て団長がかっこよく言った!


「よし! お前ら観とけ! 団長が直々に見本見せてやっからよ!」

「「「「わかりました!」」」」


 そう言って団長は自分ちの前で待機する。

 そして団長の振りが始まった!


 十分後……


 団員たちは目の前の光景に目を奪われていた。


「美しい……」


 隆幸は団長の姿に感嘆の声を漏らしていた。


「何て……完璧なんだ……」


 ツギオは驚いて呟くのが精いっぱいだった。


「こんなの見たことない……」


 羅護も思わずそう漏らした。

 そして、三人は同時にこう言った。


「「「何て凄い土下座なんだ!」」」


 団長は……団員全員に完璧な土下座を見せていた。

 団長の前には奥さんともう一人の女性が居た。

 可愛い感じの人ではあるが、どうも御立腹のようで顔から怒りを感じる。

 奥さんが冷ややかな目で団長を睨みながら言った。


「いやーびっくりしたわぁ……まさか祭り当日にあんたが口説いた相手が苦情言いに来るとは思わなかったわー」

「本当に申し訳ございません……」


 団長の演舞自体は良かったのだが、奥さんの後ろから出てきた女性を見た途端、演武がぐにゃぐにゃし始めたのだ。

 そして、演武を終えた団長は、そのまま流れるように奥さんへと土下座をした。


 ガシィ!


 奥さんは荒っぽく団長の頭を掴む。


「ごめん。ちょっと団長借りるわ。大丈夫け?」

「良いよ」


 あっさりと答える副団長。


「うるうるうるうる……」


 涙目で「俺も連れてって!」と訴える団長。

 だが、無情にも副団長は言った。


「さ、後ろにも迷惑だから先に行くぞお前ら」

「「「うぃーす!」」」


 そう言って団長を見捨てて去って行く団員たちだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る