第46話 造り物


 さて、そうやって出発した古屋形町の青年団はある場所についた。


「ふぁ~……」


 ツギオが目をキラキラさせながら、辺りの様子を見ている。


 獅子吼神社の前には各町の青年団が集まっていった。


 古屋形町をはじめとして、鶴賀町、菅毛町、御文町の北町。

 若松町、枝茂町、葉繁町の南町。

 高山町、瓜谷町、花盛町の東町。

 今宵町、壱夜町、九夜町、四夜町の西町。


 金剣町の各青年団が造り物や獅子を持って集まっている。

 特に町の造り物が全部集まっているのは圧巻であった。


 高さ5mもの人形が道路を占領しているのは中々みられる光景ではない。


「凄いねぇ……」


 フラフラと順番に見ていくツギオ。それについて行く隆幸。


「あんま勝手に触るなよ?」

「わかってるよ!」


 そう言いつつも手に持っている携帯でパシャパシャ撮りまくるツギオ。

 見るもの全てが新しいのか、目を輝かせながら見ているツギオを見て不思議に思う隆幸。


「未来で何度も見てるだろ? そんなに珍しいのか?」

「全然違うよ~。未来だともっと細かくリアルに作ったり、電飾でギラギラさせたりするから。ギミックにもこだわってがしゃがしゃ動き続けたりするし」

「そっちの方が凄くないか!?」


 むしろ驚かされる隆幸。

 だが、ツギオはパシャパシャ撮りながら言う。


「こっちの方がよっぽどすごいよ! だって、歴史書の中でしか見れない造り物だよ? そりゃ、未来に比べるとチープだけど、こっちの方がエモい!」

「ちょっと何言ってるかわからない……」


 流石にツギオの言い分がわからずに困り果てる隆幸。

 とは言え、10以上もの町が集ってこれだけ大きな祭りをするのは中々圧巻である。


(俺達にとっちゃいつもの祭りだけど、あいつにとったら歴史の一部なんだな……)


 少しだけ感慨深い隆幸。

 今、何気ない光景の一つ一つですら、歴史の重要な一部なのである。

 10年も経てば色んな物が変わり、価値観ですら変わる。

 そうやって巡り巡って現在へと繋がっているのだ。

 すると、ツギオはある造り物に興味を持った。


「あの際どい衣装のキャラは何?」

「あれか? 『三国強帝』の貂蝉だよ」


 その造り物は『三国強帝』というアクションゲームに出てくる三国志のキャラだった。

 雑魚キャラを吹っ飛ばしながら進む爽快アクションが売りのゲームである。

 そんなゲームに出てくるキャラだが、煽情的で露出度の激しい服装の女性キャラに嬉しそうにツギオ。


「貂蝉かぁ……なるほどねぇ……」

「三国志は流石にそっちでもわかるみたいだな」

「そりゃそうだよ。『演義』と『正史』のだから」


 ツギオが撮りながらもそう答える。

 すると隆幸は少しだけ、眉を顰めた。


(……元祖? 何のことだ?)


 三国志は演義と正史に分かれる。

 正史は歴史書で演義は演劇として創作物語となっている。

 どんな違いがあるのかと言われれば……


(そういや、貂蝉って演義の方にしか出てこないんだよな……)


 物語に都合の良いように色々と手が加わっているのである。

 それ故に存在しない架空の人物が居たりもする。

 貂蝉や周倉、関策などは存在しない人物である。

 それはそれで構わないのだが……


ザワ……


 心の中で少しだけざわめくものを感じる隆幸。


(……何か異様に気になるな……)


 改めて造り物の貂蝉をよく見てみる。

 ゲームキャラなので露出度が高い服を着ており、お世辞に言っても戦争しに行く服装ではない。

 とは言え、こういったことにイチイチ文句を言うのは野暮というものだろう。

 そして隆幸が気になるのはそこではない。


(何だ? 何が気になってるんだ?)


 自分の気持ちが不思議になる隆幸。

 すると、声がかかった。


「よう隆幸」

「よう玉響。お前も今年は出たのか?」


 イケメン系の同級生が声を掛けてきた。

 どうやら貂蝉を作った町の青年団らしく、周りの人と一緒に色々やってるようだ。

 そのイケメン系同級生が疲れたように言う。


「親父がうるさくてな……」

「お前も大変だな……」


 そう苦笑する隆幸だが、玉響は苦い顔になる。


「祭りに出んとお小遣い減らすって言われて……」

「厳しいなぁ……」


 苦笑いをさらに苦くする隆幸。

 すると、遠くから声がかかった。


「ほらタカ! 早く早く!」

「わかったよ! じゃあ、また後でな!」

「おう!」


 そう言って隆幸は足早にツギオの方へと向かう。

 この時、隆幸は気付いていなかった。


 自分が大変なことに巻き込まれていることを。


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